地方政治の腐敗を暴いたローカル局が、次は映画で闘う
富山県のローカル放送局、チューリップテレビがドキュメンタリー映画「はりぼて」を製作。今月から全国で公開する。本作は、2016年8月に同局がスクープした富山市議会議員の政務活動費に関する虚偽報告に端を発し、次々と明らかになる市議会議員の不正と辞職ドミノをとらえたテレビ番組「はりぼて~腐敗議会と記者たちの攻防~」が出発点となっている。このニュースは全国的にも報道されたので覚えている人もいるだろうが、映画「はりぼて」では、その後の議会や議員たちの様子を伝えている。そこには現在の国政にも通じる呆れた現実が映し出され、「そんなダラな!?」(※)という想いがこみ上げてくる。作品中では、記者として登場もしている砂沢智史監督に話を聞いた。
「いわゆる自民王国の富山では議員の立場が強く、記者クラブでも取材を断られることは頻繁。そんな中、市議会議員の議員報酬引き上げが大きく取り上げられたんですが、直後に市議会のドンと言われるベテラン議員の政務活動費の不正問題が発覚するんです。そこでチューリップテレビでは、取材を嫌がったり断ったりする議員たちの対応も含めて撮り、状況を打ち破っていこうと考えました。ただ、追求は先が見えなかったですね。映画では編集上わかりやすくなっていますが、情報公開請求で得た実際の書類は個人が特定できないようになっているので、本当にわからないことばかりで。添付書類と筆跡を比較したりしながら真相を突き止めていきました」
(C)チューリップテレビ
砂沢とともに取材に奔走し、報道キャスターとしても最前線に立った共同監督、五百旗頭幸男が構成・編集でも手腕を発揮している。証拠探しや裏取りの面白さは刑事ドラマばりだが、追いつめられて事実を認める議員たちの姿はもはやコメディ。でも、笑いきれない。なぜなら、これは決して富山という地方都市、地方政治だけの問題ではないことを私たちは知っているからだ。服部寿人プロデューサーは次のように語る。
「ローカル局は地元の報道で精一杯になりがちですが、地方の実情にこそ普遍性があるとも思っています。モリカケ(森友学園・加計学園)や『桜を見る会』の問題も新型コロナウイルスのせいでうやむやにされていますが、この映画が国の政治まで考えるきっかけとなればいいなと。砂沢も私も人事異動で報道は離れましたが、現場を引き継いでくれている同僚もいますし、今後も会社全体でジャーナリズムを徹底していくだけです。一方で、ローカル民放局が従来のやり方では立ち行かなくなってきているのも事実。そこで得意分野を生かして収益をあげる取り組みのひとつが映画であり、実は第二弾も準備中。テレビの番組制作を続けていくために、新たな事業である映画にも力を注いでいく方向なんです」
ローカル局は放送エリアが限られているので、映画製作や配信によって、より多くの鑑賞者を見込める。そこには言葉どおり事業拡大の狙いもあるだろうが、より広く問題を伝えなければいけないという使命感が大前提だ。市議会議員の大量辞職を受けた補欠選挙は投票率26%で、前回を下回ったという。砂沢監督いわく「基本的に勤勉」な富山の人たちに、映画公開を通じて外からの眼差しや声も感じてもらえたらいいなと思う。映画に時おり挿入された立山連峰の風景が美しく清らかであればあるほど、地上の人間たちのゴタゴタが醜く哀しい。
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