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ヨーロッパ企画が、代表作の続編「サマータイムマシン・ワンスモア」で過去と向き合う


ヨーロッパ企画が結成20周年を迎え、大規模なツアーを敢行中。10月4日(木)には名古屋にもやってくる。携える演目は「サマータイムマシン・ワンスモア」。2001年初演の代表作「サマータイムマシン・ブルース」の続編だ。京都が拠点ながら全国に熱いファン多数、演劇以外の分野からも注目を集めてきたヨーロッパ企画。「サマータイムマシン・ブルース」は、本広克行監督で映画化されたことでも広く知られる。そんな作品の続編をいつ頃から考えていたのか。作・演出の上田誠に尋ねた。

「20周年を迎える2~3年ぐらい前から、何か“らしい”こと、お祭り的なことをやりたいとは話し合っていて。過去の作品を再演するという案から浮上したのが『サマータイムマシン・ブルース』で、同時に続編を作るのはどうかという話も持ち上がったんです」

ヨーロッパ企画の代表で、作・演出の上田誠

上田が「サマータイムマシン・ブルース」を書いたのは実に大学時代。そこでは等身大の学生によるSF青春群像劇が繰り広げられた。果たして、続編では……?

「舞台は同じSF研究会の部室で、15年後の設定。もともとの登場人物10人のほかに新しいキャラクターが3人いて、役どころは大学の現役生ふたりと『サマータイムマシン・ブルース』には登場しなかった同級生です。過去の自分たちと向き合う物語なんですが、“過去との向き合い方”は劇全体のテーマにもなっています。前作の登場人物に対して年齢的に先輩となった今、負けたくないだとか複雑な気持ちも抱えつつ、若かった自分たちに何を言えるのか?それが肝になっていきます」

経験を積んだ分だけ、能力は間違いなく上がった。若き日の自分たちに助言できることも多いだろう。それでも「サマータイムマシン・ワンスモア」は難産だった様子。

「『サマータイムマシン・ブルース』ではタイムマシンを使ったSF物の“真ん中”とも言えることを余すところなくやっているので、続編はかなり悩みました。前回やっていないことをやらなければいけませんから。言うなれば、カレーの材料があるんだけど、カレーはもうできているから、別のメニューを作らなければいけないという(苦笑)。でも、この例えに思い至ったら、楽になったんですよ(笑)」

そこから上田がとった具体的作業も面白い。

「いま大学生スタッフの受け入れをしているんですよ。そこで、彼らを“仮想敵”にするアイデアが浮かんで(笑)。この人たちが『サマータイムマシン・ブルース』を作ったと仮定して、『さあ、どうする!』と迫られているような展開を想像してみたんです。こちらは横綱相撲的に構えたいので若い彼らをからかったりするんだけど、まだギラギラしているところも見せつけたい(笑)。過去の自分たちに干渉する場面では、はねつけられて憤ったりもします。そのうえ『いや、俺らだってやってるし~』と、うそぶいたり(苦笑)。結果いい着地点を得られたのか、『サマータイムマシン・ワンスモア』も観客の反応が良くて、喜んでいます」

どんなアーティストにとっても過去の自分と向き合うことには困難を伴うが、上田たちの向き合い方はクレバーで健全で正直だなと感じる。代表作と続編の分析がその証しだろう。

「『サマータイムマシン・ブルース』は、夏の2日間が結晶化されたような作品。対して、『サマータイムマシン・ワンスモア』は幕の内弁当のようと言うか、いろんなおかずが高い密度で入っていて、その総量や単位時間当たりの“圧”で観客に見せるものになっています。そこには季節の変化など『サマータイムマシン・ブルース』では描けなかったことも含まれますけど、2018年現在のヨーロッパ企画を観ていただきたいという想いはありました。人がゾロゾロたくさん出てくる感じなどは、最近の僕らの作品の特徴ですよね。また『サマータイムマシン・ブルース』は、演劇のことはまだ何もわかっていないけど時間だけはあった頃に書かれ、実際とても時間を掛けたことを覚えています。一方『サマータイムマシン・ワンスモア』は、これまでの蓄積があり、相談できる人も増えたので、いま使える手段すべてを詰め込んで書かれています。『サマータイムマシン・ブルース』が3ピースバンドの作品だとしたら、『サマータイムマシン・ワンスモア』はストリングスを迎えるとか音数を増やせるぐらい成長して、分厚い和音で勝負してみた作品なんです」

変わらず京都で創作を行い、どんなに人気が出ても浮つくことなく、でも冒険心も失わない。上田たちは、さらに先を見据え、気を引き締めている。

「本当は、常に『今年は特別だ』と思わなければいけないんですよ。内部の刺激の度合いは、外に伝わってしまうものなので、自分たちが慣れを覚えてはダメ。21年目からが怖いとも思っているんですよ。長く続けている劇団はどんどん面白くなっていく。経年変化は面白いものです。僕らも集団で培ってきたものがあると信じていますし、まだまだやりたいこともあるので、“受け”に回らないよう進んでいきたいと思っています」 *舞台写真 撮影:清水俊洋

ヨーロッパ企画 「サマータイムマシン・ワンスモア」 ◎10月4日(木)19:00 ウインクあいち大ホール 前売4500円 当日5000円 学生シート(前売のみ)3000円 http://www.europe-kikaku.com/

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