イスラエルの鬼才振付家ナハリンの映画と舞台が同時期に!
いまや舞踊大国として世界中からダンサーが集まるイスラエルにおいて、牽引役にあるのがオハッド・ナハリンだ。芸術監督を務めてきたバットシェバ舞踊団で作品を発表するだけでなく、パリ・オペラ座バレエ団やネザーランド・ダンス・シアターといったヨーロッパ最高峰のカンパニーにも振付している鬼才は、もはや“教祖”的な人気とさえ言われるほど。特に彼が考案したメソッド〈GAGA(ガガ)〉の影響力は絶大で、一般の人でも体験できる〈GAGAピープル〉にまで裾野が広がっている。ただし、GAGAは見学不可なので、実態を知るのは体験者のみ。ところが、その奥義とナハリンの実像に迫ったドキュメンタリー映画が公開される。題名は「ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス」。
映画「ミスター・ガガ」には、純粋に身体を動かすことが好きなナハリンの少年時代の姿もあれば、中東戦争に従軍していた苛烈な時代の姿も収められ、貴重な映像の連続。もちろん彼が振付した傑作・代表作の名シーンもふんだんで嬉しい。個人的には、日本の現代アーティスト・束芋の《にっぽんの湯屋》とコラボレーションした2006年のダンス・インスタレーション「FURO」がちょっとだけでも観られて感激! さらにカメラは、部外者がほとんど見ることのできない稽古場にも潜入している。これには同じイスラエル出身の女優ナタリー・ポートマンも驚き。ちなみに、彼女は本作に出演もしている。他にアメリカのマーサ・グラハムやフランスのモーリス・ベジャールなど、歴史的舞踊家も登場するので大興奮。
オハッド・ナハリン(映画「ミスター・ガガ」より)
公私ともに支えてくれた妻・梶原まりに先立たれたり、イスラエルの広告塔のように見られることで社会的・政治的な心労も尽きず、ナハリンの生涯は幸せなこと、華やかなことばかりではない。それでも再婚した現在は子どもにも恵まれ、薔薇色の人生に見えるが……。映画スタッフたちが最後の最後にとらえた素の表情に、観る者は思わず動揺する!?
バットシェバ舞踊団「LAST WORK-ラスト・ワーク」より
そして「ミスター・ガガ」公開直後には、ナハリンの世界を生で体感できるチャンス到来!
11月3日(金・祝)、バットシェバ舞踊団が愛知県芸術劇場大ホールで公演を行うのだ。演目は、
日本初演の「LAST WORK-ラスト・ワーク」。意味深長な題名は、複雑な歴史を背負うイスラエルで危機感をもって格闘してきたナハリンの集大成を意味しているのか。すでに現地で観た人たちの話によれば、衝撃的な大作らしい。そんな反響のある中、ナハリンは2018年9月をもってバットシェバ舞踊団の芸術監督を退任すると発表。同カンパニーの芸術監督としては本当に最後の作品となってしまう。
熱く激しく、でも時にユーモアや温かな感触も忘れないナハリン。偉大なるアーティストの、ひとつの節目が近づいている。
*上の画像はすべて (C)Gadi Dagon
「ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス」 ◎10月28日(土)~、名演小劇場にて公開 バットシェバ舞踊団
「LAST WORK-ラスト・ワーク」 ◎11月3日(金・祝)15:00、愛知県芸術劇場大ホールにて公演 映画「ミスター・ガガ」公式サイト バットシェバ舞踊団 愛知公演サイト