「百円の恋」の武正晴監督の新作は実話だらけ!?
「百円の恋」で多くの映画賞に輝き、各方面から高い評価を受けた武 正晴が、3年ぶりの新作「リングサイド・ストーリー」を監督した。今回もオリジナル脚本ながら、実は原案となるエピソードが……? 武監督に真相を尋ねた。
「去年の春、プロデューサーの李鳳宇さんから格闘家団体とそこに所属する人たちを描いた映画ができないかとご提案をいただいたんですよ。題材以外は自由な状況だったので、これはでっち上げられるなと(笑)。それで李さんとバックヤード物の方向で練っていた時、足立さんの奥さんの話をしたら、李さんがすごく喜んで聞いてくださって……」
“足立さん”というのは「百円の恋」で脚本を務め、武が盟友と呼ぶ足立紳のこと。足立はまだ鳴かず飛ばずだった頃、家計を支えてくれる妻を自分の好きだったプロレスの団体に入社させたのだが、彼女がバリバリ働くにつれて異変を来していった!?
「奥さんは結構な倍率の試験を通って社員になったのに、彼女が忙しく飛び回るようになると足立は嫉妬に狂い、団体やレスラーの悪口を言ったり、奥さんを疑ったりしたらしくて(苦笑)。よくわからないし興味もなかった奥さんをプロレスの世界に送り込んだのは自分なのにね(笑)。そんな足立から聞いた実話を基に、この映画はできあがりました」
こうして、格闘家たちの日常とひと組の男女の愛情が織り成す“ファイト・ラブコメディ”が誕生。主人公のカップルには佐藤江梨子と瑛太が扮し、夢を追い続ける無名俳優ヒデオと演劇をやめて彼を支える恋人カナコの物語を紡いでいく。特に瑛太は、いわゆる“だめんず”を快演。佐藤の母性あふれる演技とも好相性に映ったが、武監督はヒデオという役を必ずしもダメ男とは考えていない。
「ヒデオ役は足立がモデルですが、僕に通じる部分もあって、ダメな男というより面白い男、ただ愉快な人に見える。我々は日常社会では全く通用しないんですよ(苦笑)。瑛太さんにも、そういう部分はあるんじゃないでしょうか。ダメとか良いとかいう基準ではなく、面白いところが……。僕からすると、意外と身の回りにいるキャラクターだから描いたわけで、周囲からは共感も得ているんですよね。俳優だったらヒデオぐらいのことはするなと。僕も“ブレない男”“懲りない男”と言われてみたいですよ。『また、こういう映画を作ったの? 懲りないね』って言われたい(笑)。なかなか、そういう人間はいませんから。ヒデオのような男が本当にカンヌに行ったら爆笑しますよね。でも、どんな手を使ってもレッドカーペットを歩きそうでもある。僕はヒデオに対して『ダメだけど期待できませんか?』という想いなんですよね。だからキャストは重要でした」
確かに瑛太演じるヒデオは、むちゃくちゃだが人を引きつける。ヒデオとカナコの愛情物語にリアリティをもたらす理由だろう。
「ヒデオとカナコは、どうして離れないのか。ストーリー上そこを暴くことが大切でした。配役は瑛太さんが先に決まり、彼と一緒にいる姿を考えた時、それに負けない強さや包容力のある人がほしいなと。佐藤さんは人を見る眼差しが優しく、実生活で母になってからもステキですよね。瑛太さんと佐藤さん、実際ふたりは合っているなと感じましたし、共鳴し合っていたとも思います」
なお、カナコが勤め始めたことで騒動に巻き込まれていくのは実際に存在する団体、プロレスの「WRESTLE-1(レッスルワン)」と立ち技格闘技の「K-1 WGP」。詳しい方ならばご存知のとおり、両者の性質はかなり違うので、共演はめずらしい。武監督は「普段交じり合うことのない者同士をくっつけてしまえるのは映画の良さ」と語る一方、日々興行を行う彼らに対して共感や敬意もうかがわせる。劇中、リングを設営するシーンは美しく印象的だ。
「ヒーローも悪役も関係なく、選手みんなで自分たちのリングまで作る。その様子をあらためて映画に収めておこうと。それに、この映画は“支える人たち”の話でもある。プロレスやK-1にも裏方はたくさんいるし、誰かにスポットライトを当ててあげたいという人は、いろんな世界にいるんですよね。カナコもそういう人なんです」
ちなみに、本作は脇を支える共演陣も巧者揃い。余貴美子、高橋和也、近藤芳正、有薗芳記、田中要次ほか個性派たちが随所で妙演している。また、意外な人のカメオ出演にも驚かされるのでお楽しみに。さらに本物のレスラー・武藤敬司も登場する中、WRESTLE-1の黒潮“イケメン”二郎とK-1の武尊は重要な役どころを好演。格闘技に興味のなかった女性でも、若きふたりを見たら魅了されてしまうはず!
「リングサイド・ストーリー」 ◎10月14日(土)~、センチュリーシネマ、ユナイテッド・シネマ豊橋18にて公開 http://ringside.jp/