関西の新鋭が代表作の雪辱を……!
劇団壱劇屋の活動拠点・大阪府枚方市は、大阪と京都の中間に位置している。だからだろうか、大阪的なエンタテインメント性と京都的な実験性を兼ね備えるカンパニーという印象を受けた。名古屋初登場となった昨年の公演「SQUARE AREA」では、サスペンスタッチの会話劇とダンスやマイムなどが融合した舞台で観客を圧倒。そして今回は、彼らの方法論が鮮明になった2012年の作品「新しい生活の提案」をブラッシュアップして再演する。作・演出の大熊隆太郎に話を聞いた。
「初演当時は20代のファーストラウンドと言うのか、作品優先の傾向にあり、膨大な時間と労力をかけて創作したのに、3日間の公演で動員200人ぐらいの状況でした。それが段階を経て10倍ぐらいの観客に来ていただけるようになると、あの頃の自慢の商品、自慢の息子を、今のクオリティでお見せしたくなって……。初演には悔いも残っていたし、評判が良かっただけにリベンジしたい作品でもありました。そうであれば、年に何回もできない3都市ツアーに携えることで、関西以外の方々にも観ていただきたいなと考えたんです」
作・演出の大熊隆太郎
台詞も動きも分離することなく物語に不可欠な要素となっている「新しい生活の提案」に対し、大熊は「創作スタイルの基準ができた」と実感。これまでと違う周囲の声にも手応えを得た。それらは以降の原動力ともなり、費やした時間と労力も報われることに。
「劇団内で構成をディスカッションしてから台本に書き起こす作業を重ねることで、メンバー全員が作品全体を土台から把握し、理解し、共有できるよう目指してきました。その習慣が『新しい生活の提案』の時、うまく実ったんだと思います」
そうして生まれた作品は、一種のメタシアター的趣向で幕を開ける。主人公の男は“壱劇屋”のチラシにうたわれた「新しい生活の提案」にひかれ、退屈な日常からの脱出を夢想して、なぜか市役所へと迷い込む……!?
「観客がチラシを読んだ時点で劇世界とリンクしている感覚になって、物語に導かれていくことを狙っています。市役所を舞台にしたのは公的でクリーンな場所であることに加え、何かを変える手続きの場というイメージがほしかったから。そこでタライ回しにされるうち『本当にこのまま進んでいいのか』と思うほど奇妙なところまで行き着くという……。言わば“公の闇”に出会うことで、観客の帰り道がいつもと違うものになったらいいなと」
なお、実際のチラシには漫画家・史群アル仙に依頼したイラストが配され、独特の雰囲気を醸し出している。大熊は「昭和の感触があって、面白くコミカル」と語ったが、果たして劇の実態とは結びつくのだろうか――。
2008年の旗揚げから走り続けてきた彼ら自身とシンクロするかのように、その舞台は疾走感、スピード感に満ちていて爽快。大熊は「劇団活動、集団創造が最もやりたいこと」と言い切り、新作主義でもなければ大熊の書き下ろしにこだわりがないあたりも清々しい。そんな新鋭劇団の代表作は、今この瞬間にしか観られない輝きを放つはずだ。
劇団壱劇屋 「新しい生活の提案」 ◎6月3日(土)・4日(日) 名古屋市千種文化小劇場 一般3800円 学生(U-22)2000円 高校生以下(U-18)1000円 ※当日は各500円増し。 ※学生・高校生以下チケットは当日要証明書。 ※未就学児童は入場不可。 http://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya