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LGBTを取材して見えてきたもの


近ごろ“LGBT”の文字をよく見かける。これは「lesbian=レズビアン(女性同性愛者)」「gay=ゲイ(男性同性愛者)」「bisexual=バイセクシュアル(両性愛者)」「transgender=トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)」の頭文字で、セクシャルマイノリティ=性的少数派の一部を指す。そんな世界にカメラをもって迫ったのが古波津陽だ。ポスターの中でも美しく存在感を発揮している彼女、真境名ナツキを被写体とした「ハイヒール革命!」は、古波津監督にとって新たな試みのドキュメンタリー映画になっている。撮影の経緯から尋ねてみた。

「僕の2009年の作品『築城せよ!』のプロデューサーだった益田祐美子さんから『こういう友だちがいるんだけど…』と言って、ナツキさんを紹介されたのがきっかけ。話を聞いてみると、中学でカミングアウトした事件が面白かったんですよね。そして、それを支えたお母さんや周りの人たちの存在も扱うことができれば、映画になるなと思って。“寄り添う”ことをテーマに、母と子、親子の物語にすることで、LGBTの問題を越えた作品の可能性を感じたんです。ただ撮り終えてみると、ナツキをどう解釈してまとめるか、いろんな証言は取れたもののどうプレゼンテーションすべきか、悩み、迷いましたね。おかげで編集に5カ月半も掛かってしまいました(苦笑)」

男の子として生まれた真境名ナツキ(まじきな・なつき)は小学生の頃から体と心の不一致を自覚していた。その葛藤は思春期の中学生になっていよいよ激しくなり、女子の制服を着て登校したいと学校側に掛け合うこととなる。10代から複雑な心情を抱え、制度と衝突してきたナツキ。彼女を伝えるにあたり、古波津監督は完全ドキュメンタリーにせず、再現ドラマを挿入する手段に出た。

「最初はドラマで再現しようと思っていたんですけど、話を聞くことに面白味を感じていったんですよ。プレ・インタビューでも、彼女にしか言えないこと、彼女が言うから光る言葉もあっりして……。ドラマの方がいいのかドキュメンタリーがいいのか迷っているうち、素材自体がボーダレスなんだから、形式にとらわれず自由な手法でゴチャゴチャにしてもいいのかなと考え始めて。これまで福島に関するものを3本撮っているんですけど、それは記録映像なので、自分の中にドキュメンタリー映画の流儀がなかったんですよね」

そこで再現ドラマのナツキ役には濱田龍臣が配された。初の女装はシンプルにカワイイ。

「女装を新鮮に見てもらえて、かつ説得力もある人。つまり、キレイであってほしかったんですよ。そうしたら濱田くんに思い当たった。彼は余計なことをせず、自然に立っていることができる役者。濱田くんには撮影前『女装したから変わるんじゃなく、女の子の格好ができたことを本当に喜んでほしい』とだけ伝えました」

結果これが功を奏し、不思議な感覚の映画が誕生した。ドキュメンタリーとドラマ、双方を行き来することで、ナツキの視点と他者の視点では出来事の見え方が違っていたとわかり、映画をさらに面白くしているのだ。多様な意見、多様な価値観こそ本作最大のテーマ。

「LGBTという言葉すらきちんと知らなかった僕も、撮っていくうちに変わったところはあります。これは、すごく身近な話。今まで意識していなかったこと、考えなかったことを知ってもらえたら、誰もが共感できる映画になるんじゃないかと。ものの考え方はすべての人が違っていて、すべての人がマイノリティのはず。でもマジョリティという幻想が根強くある。“普通”という言葉が、そういう空気を作ってしまうんです。でも、バラエティが豊かってことは、豊かさそのものじゃないですか。そういうことを一度も考えたことのなかった人たちにも、最終的に自分の問題だと思ってもらえたら嬉しいですね」

なお、どこか明るく軽やかな映画でもある。ナツキの恋人はもともと女性で、その“カレ”が料理している場面などは微笑ましい。ただ、このことも突き詰めていくと、男性が家事をしているのか女性が家事をしているのか混乱してきて、なんともシニカルだが……。

「ナツキの恋人がボヤキながら料理を作るシーンは確かに『あれ?』と思いますよね(笑)。結局、性は関係なくなっている。ただ、違うということはわかっておきたいですよね。違うから面白いし、受け入れないといけない。この映画には“ヒューマン”という言葉がはまったなと思います。ナツキはコンプレックスを個性に変えた。誰もがコンプレックスを持っていて、そのせいで暗くなったりするけど、それを個性に変えられたら武器になるんです。“嫌がる自分”を肯定するというのかな。プラスのターニングポイントですよね」

LGBTを取り巻く課題はまだまだ多く、男性用/女性用、男物/女物など、社会はわかりやすく分類されていることだらけ。意識・無意識を問わず、私たちを支配する何かが存在しているのだ。それに気づくことは、誰にとっても切実な問題である気がしてならない。

「ハイヒール革命!」 ◎10月1日(土)~14日(金)、 ミッドランドスクエアシネマにて限定公開 http://highheels.espace-sarou.com/

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