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大阪のおっさんに未来を想う……!?


ヨーロッパ企画の新作「来てけつかるべき新世界」は、まず代表・上田誠の挨拶文に驚かされた。企画書には「自分の中から強烈に獣の匂いがしたので、大阪のおっさんの劇をやりたいと思いました」とある。上田の作風といえば、数学的・幾何学的な空間構成やドライな劇構造が印象深いだけに、“強烈な獣の匂い”やら“大阪のおっさん”といった汗ばんだ感触のキーワードと結びつかなかったのだ。率直に彼らを直撃した。

「以前から構想はあったんですよ。前回・前々回の公演ではゲートや文房具を題材に、ややクリーンな感じの、体毛が生えてないような作品が続いたので(笑)、次は匂いのあるものをやりたくて。イメージとは違うかもしれませんけど、そういう世界も好きなんですよ。過去の作品でいうと『ロードランナーズ・ハイ』『Windows5000』とかがそうですね。そこで今回は大阪のおっさんの劇を。『獣の匂い』というのはまあ、ちょっと振りかぶった書き方をしてますけど(笑)、新喜劇的な笑いも目指しつつ、大阪文学の雰囲気も追いかけてみたいなと」(上田)

ひと口に大阪のおっさんと言っても人種は様々だが、無論、オフィス街の梅田界隈=キタのおっさんではなく、ミナミのおっさん。それも織田作之助の名作「夫婦善哉」を思い起こさせる道頓堀界隈じゃなく、通天閣界隈=新世界に棲息する濃い中高年男性のイメージだろう。上田とともに取材に応えてくれた酒井善史と諏訪 雅も楽し気にこう語る。

「平日の昼間からおっさんがたくさんいるので、“おっさんの街”っぽさが新世界にはあるんですよ」(酒井) 「新世界のおっさんは、バックボーンも気になりますね。例えば帽子なんかに意外と独自のおしゃれを感じさせたりして、そういう雑誌があるのかと思うほど(笑)」(諏訪)

さらに上田も「パンクの精神を感じるのもイイんですよ。血の気の多さというか、動物っぽさを感じる。でも僕らだって、お酒が入ったりして薄皮を1枚剥ぎとられたら、おっさんっぽくなる。そこをいかに愛らしく描くか、愛しい劇にするかが大事」と続けた。企画書の「おっさんがドローンと戦ったり」という下りもかなり気になるが、中身は一体?

「おっさんと呼ばれる年齢層の男性はどこにでもいるはずなのに、大阪のおっさんは独自の進化をとげていますよね? 個性が見て取れるんです。そういうおっさんの集合体を表現したい。そこに詩情や情緒も出ればいいなと。一人娘の切り盛りする串カツ屋が舞台となります。あと、大阪弁で大阪の劇をやりたいという想いに、何か新しい要素も足したかったんですよね。そんな時、ドローンに関する本と出会い、おっさんがドローンと戦う話にしたら、いい掛け算になるんじゃないかと。新世界というレトロな街とテクノロジーの相性が面白さを生むと思ったんです。これだけネット社会が進んでいてもサーチエンジンの届かない場所ってある。対してドローンは、リアルな空間で動いて情報を収集することができる。そういうドローンと、例えば“串カツソースの成分を知られたくない串カツ屋”が戦いになるワケです(笑)。だからSFとおっさんと人情とグルメと…、というような劇」(上田)

こう聞くと確かに、意外さよりヨーロッパ企画の真骨頂を感じる。さらに上田の壮大な世界観、歴史観、人間観に触れると、“新世界”という言葉の意味合いも変わり始め、未来を見据えた新しい傑作の予感に打ち震えてしまう。

「SFと言いましたが、実際は幻想文学とか、コルタサルの小説に近いものを最近はやりたいんです。魔術的な、異常な世界を演劇で見せたくて。古ぼけた小さな店が頑張っているんだけど、そこにドローンがやってきて、他にもいろんなテクノロジーが押し寄せて、新世界がディストピアに見えてくるという……。かつて産業革命による機械化で肉体労働者が疎外されましたけど、現代では人工知能の発達によってホワイトカラーが同様の目に遭っていますよね。人間は排除されていくのか共存していくのか。そういうことを考えた時、そんなに忙しくないおっさんが集まってる新世界をユートピアと見るかディストピアと見るかという問題には、現在性があると思って。そして、そういう状況で『人間ちゅうのは…』というところをコメディとして描きたいんです」(上田)

京都は他の地域では見られない独創的な劇団を数多く輩出してきたが、ヨーロッパ企画もまさに京都演劇界の雄。定期的に全国ツアーを行い、各地で高い人気を誇っている点でも唯一無二の存在と言えるだろう。しかし、そういうことに対して上田たちは至って冷静だ。

「動員は増えても、対1万人の観客ではなく、ひとりに深く刺さるものを…という考えでやってきました。また観客も『僕はコレが面白いと思うんですよ』というものに対して、強い反応をしてくれる。今回は、お互いにシンパシーを感じてきたキセルさんに音楽を依頼していますが、メディアアートやお笑いの方々から興味を持っていただくこともあり、観客にも普段は演劇を観ない方も多いと思います。それが僕たちにとっても楽しく刺激的なので、そういう劇団でありたいと思いますね。例えば、諏訪さんは映像やアプリ、公演パンフレットの編集なども手掛けますし、酒井もヘンな発明をしたりして、メンバーみんな演劇以外のことにもたくさん関わっているんですよ。演劇界の“界”とか文壇の“壇”とかが付くようなところに居付いてしまうより、色んなところと通気よくありたいなと」 「現実的に交われないというのもありますね、京都にいると。イベントやフェスを積極的に自分たちでやったりしてますけどね」(諏訪) 「大阪の維新派や名古屋の少年王者舘のように、中央の引力から離れたところでやっている劇団への憧れもありますよ」(上田)

憧れるまでもなく、ヨーロッパ企画はすでに独自の路を走っている。そんな彼らが導いてくれる新世界、そして未来は、例えようもなく複雑な味わいになりそうだ。

ヨーロッパ企画 「来てけつかるべき新世界」 ◎10月15日(土)14:00 四日市市文化会館 第2ホール 【前売】一般3000円 学生1500円 【当日】一般3300円 学生1600円 ※「よんドラ」3公演通し券あり。 詳細は四日市市文化会館(http://yonbun.com/)まで。 ◎11月2日(水)14:00/19:00 名古屋市東文化小劇場 前売4500円 当日5000円 学生シート(前売のみ・引換時に要学生証提示)3000円 http://www.europe-kikaku.com/

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