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信仰と幸福の関係に笑いあり?


幸せを求め、人は時に様々な宗教、神信心に走る。特に日本の場合、神社であろうがお寺であろうが区別なく手を合わせ、切実さの度合いに関わらず気軽にお祈りする人は多い。私たちの信仰心はどのように成立しているのだろうか。劇団B級遊撃隊が謎に斬り込む。

「満ち足りた散歩者」は主宰・佃典彦が2000年に書き下ろした作品。今回は16年ぶりの再演だ。佃にはめずらしく戯曲をほぼ改訂せず、演出の神谷尚吾も大きな変化を狙わないという。お稲荷さんが祀られたビルの屋上を舞台に、様々な人が行き交う物語には笑いもふんだんだが、背景には異常気象による水不足があり、どこか不気味さも……。

「初演当時を振り返ると、書きたいことがないのに年に2回の公演は予定されているから書かなきゃいけなくて、劇作家として一番しんどい時期だったんです。その分いろんなところからアイデアを引っ張ってきてるので、いま読み返すと面白いんですよ。お饅頭だと思って食べたのに、チョコが出てきた感じがあったり(笑)。今だったら、皮の精度を上げる方とかにいっちゃうんだろうけどね。近作より説明的な要素も少ないので、隙間が多く、役者や演出によって印象が変わる戯曲でもあります。実際、東京で役者の塩野谷正幸たちが蓬莱竜太さんの演出で上演した時も『こんな風になるんだ』と思いましたから」(佃)

左から、まどか園太夫(Wキャスト)、客演の二瓶翔輔

今回も初演とはキャストが大幅に違うので、どんな感触になるのか楽しみ。ちなみに、佃の役どころはお稲荷さんに代わって街の便利屋と化している男で、神谷演じる殺し屋に自分の命を狙わせながら生活を共にしている。そうして〈死〉を身近に引き寄せることで〈生〉を実感しているらしいのだ。より良く生きるために必要な、死の影と言ったところか。

「このところ立て続けに身近な人間を亡くしたので、そういうことへのレクイエムという意味合いはあるかな。彼らは〈病〉という死に向かうものを身体の中に抱えながら仕事をしていたので……。もちろん自分自身、この作品を30代で書いた時よりは死が近くなっているのも事実(苦笑)。生きている価値の見いだし方も30代の頃と50代の現在とでは違いますよね。でも湿っぽくないし、バカバカしい部分も多い芝居ですよ」(佃)

届いたばかりの衣装の帽子を試しにかぶる徳留久佳。何の役だ!?

確かに、日本人の信仰心や死生観は浮かび上がるかもしれないが、ユーモアに満ちた劇であることも間違いない。それがブラックユーモアであっても、笑えるって幸せ!?

「幸せになることっていうか、8人の登場人物がどうやったら幸せになるかなと考えながら芝居を作っています。初演当時だって今だって、嫌なことや辛いことがあるのは変わらないし、この歳になっても同じようなことを考えてますよね。〈死〉に対しても、実感する時は強く実感するけど、そうやって距離感が縮まったところで『まだ大丈夫』だと思っている自分もいる。死への理解度は増したとしても、美味しいものを食べて美味しいと感じられる幸せはまだある。今は、向田邦子の『幸福』に出てきた『ゴミ箱の隅に光るもの…』というような表現を参考にしながら演出してますね」(神谷)

前列左が演出の神谷尚吾、奥は佃典彦

神谷の心境に初演時と大きな隔たりはないということだが、役との向き合い方には変化も? 前述のとおり殺し屋を演じる神谷は、佃演じる便利屋の男とともに中心的役割を果たすかのように映るが、案外そうはならない様子だ。

「再び手掛けてみたら、佃さんと僕は脇役なんだと思い始めたんですよ。初演ではもっとしゃしゃり出ていたように記憶しているんだけど、そうじゃないなと。今回は周囲の人の言うことを『聞いている』感覚が強い」(神谷)

この言葉と呼応するかどうかわからないが、稽古中、神谷から「音が違う」というような趣旨のダメ出しが頻繁にあった。台詞の発し方に関する指摘なのだが、観劇は〈聴く〉比重が高いので、観客に対して言葉の響きを気にするのは当然。役者自身も聴くことに優れていないと務まらず、演劇において音への敏感さは必要不可欠だ。虚構であれ現実であれ、相手の言葉を聴くところからしか本当のコミュニケーションは生まれないのだから。

最後に、幸せの在り様をめぐって、音楽好きの神谷からこんな言葉も……。

「チャボ(仲井戸麗市)の曲で『いつか笑える日』っていうのがあるんだけど、その歌詞を思い返してみて、やっぱりいくつになっても生きる実感は同じだなと思う。ただ、『笑える』とか『笑える日』って本当はどういうものなんだろうね。それを考えてますよ」(神谷)

又 ひとつ ふみこたえ 又 ひとつのりきって いつか笑える日まで 今いる日々を ~仲井戸麗市『いつか笑える日』より~

劇団B級遊撃隊「満ち足りた散歩者」 ◎6月24日(金)~26日(日) 愛知県芸術劇場小ホール 一般:前売2800円 当日3000円 ユース(25歳以下):2500円 高校生以下:1000円 ※ユース・高校生以下は当日、要証明証提示。 http://bkyuyugekitai.wix.com/bkyuyugekitai

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