top of page

山田うん、AT出品作の構想を語る


山田うんは、どこか根源的・土着的エネルギーを感じさせる舞台で、コンテンポラリーダンスの世界において存在感を増している。特に自身の率いる〈Co.山田うん〉で2013年に初演したストラヴィンスキー「春の祭典」は、愛知でも改訂版が上演されて大反響。全国で再演が繰り返される代表作となった。そんな彼女が、あいちトリエンナーレ2016(AT)で新作を発表する。そこで秋の公演に先駆けて構想を聞かせてくれた。

「国内のアートフェスティバルに招かれるのは初めてなので、とてもとても光栄に思っています。30歳だった2000年頃から振付を始め、留学や海外公演なども経験して、現在はソロとグループ両方の作品を手掛けています。ただ、最近は群舞をメインにしてきたこともあり、あいちトリエンナーレでは10名以上のダンサーによる作品を予定しています」

まだタイトルも未定の新作は、愛知県奥三河地方の「花祭」を題材にするという。数百年にわたって伝承され、毎年11月から3月にかけて地区ごとに開催される民俗芸能だ。首都圏を活動拠点とする彼女たちと花祭の出会いとは……?

「あいちトリエンナーレ2016のテーマ『虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅』とも絡め、あいちトリエンナーレから花祭を題材に作品を創りませんかと提案がありました。そこで昨年11月に月地区の花祭を取材したんですが、怒涛の中で寒くて煙たくて、お腹も空くし眠くなるし『もういい!』と思うほど疲れました(苦笑)。でも、どっぷりつかることが重要なんですよね。12月には、その文化を東京で受け継いでいる方々の花祭も取材したんですよ。それがまたとてもパワフルで、地元じゃないからできる部分も感じましたし、はっちゃけたものとして楽しめましたね。そして1月に見た古戸(ふっと)地区の花祭は、いちばんインパクトのある舞いでした。基本的に衣装や構成は同じなんですが、よく訓練されていたんですよ。また、拝見した資料もとても美しくて感動しました。関係者の方に『美しいものは残っていくんだよね』と言われたことも心に残っています」

いたく刺激を受けた様子の山田。では、実際のダンス、舞台はどのようなものになるのか。

「体験を、どう視覚化、聴覚化させるかが問題。雑多な空気や汗臭い匂い、土臭い、泥臭いものを“美”に作り変える作業ですよね。足のステップや線の描き方、邦楽や色彩の感覚、儀式的な部分はモチーフになっていくかもしれませんが、新しい美の価値観を吹き込みたいので、変な味付けせずに昇華させることを考えています。一体どういうものに浄化されるのか……。人間がどういうところから来て、どういうところへ行くのかと想う時、土臭いところから土臭いところへ、大地に根づいたところへ向かうのではないかと。何かが終わって何かをスタートさせる、“再生”がいちばん大きなテーマになりますね」

そこで必要になってくるのが“物語”だと彼女は続ける。単なるストーリー、筋書きではなく、背景を支える大きな世界のことだろう。

「運動的な要素、幾何学的・数学的な要素、物語的な要素の三つが柱になっていきます。頭の中で描くことと人間の身体でできることの間には大きな差がありますから、祭りで得た運動的体験を身体に染みこませていくしかない。その時、まつりとカラダ、まつりとダンスを結ぶ物語がいるんです。何を考えて、いま社会にダンスという表現を投げかけるのか。質問からじゃなく、答えから問いを逆流させてみるのもいいですよね。ダンスという表現は、人間の特権。本能と理性の両方を働かせることで、踊る側も観る側も快楽へと導かれるんです」

ところで、山田とえいばユーモアあふれる人柄も魅力。以前に当地で実施した子ども向けワークショップでは、見学している我々が爆笑してしまうほど笑いのツボを心得ていて、子どもたちもグイグイ引きつけられていた。その山田から、こんな言葉も。

「ユーモアという点でも、花祭のキャラクターを生かしたいですね。おじいさんや老婆なども作品のモチーフとして考えていますし、鬼も登場させるかも。古戸地区でダンサーも一緒に見学した時は、真似して一緒に踊ったり、鬼に扮したりしたんですよ。子どもたちにヤジを飛ばされながら(笑)。新作の公演前には、ワークショップを通じた市民との交流も検討しています」

「境界にある身体」に興味を持つという山田は、例えば衣装を自身で手掛けたりするのだが、それは衣装が身体と外界との境にあり、身体の延長線上のものとも考えられるからだ。したがって、神事と表現の境界にある花祭と彼女が出会ったことは自然の流れだったのかもしれない。ただ、神事・祭事に象徴されるとおり日本人と舞いや踊りは切っても切れない関係なのに、ダンス、中でもコンテンポラリーダンスとなると遠いイメージがあり、山田も苦慮している。

「ダンス教育の機運も高まり、私自身も身体表現の体験学習を行ったり、普及活動が増えてきました。ただ、1回につき50~100人ぐらいしか受けられないので、本当の普及を考えると物凄い数の授業をやらなければいけない。でも劇場でだったら、老若男女いっぺんに普及することができる。そこで、見せることを通じて普及につなげられないかという想いに立ち返ったんです。しかも劇場へ絶対来ない人たちに向けて舞台作りを意識しているので、愛知でも興味を持っていただけるようにしたいですね。私たちの作品を観て『花祭に行ってみたい』という人が現れるかどうかも大事だと思っています」

お話を聞いただけでも、花祭に興味津々。もちろん新作にも期待が膨らむ。あいちトリエンナーレの開幕とともに本番が待ち遠しいけれど、その前には前売チケットの発売も。今後の情報をお見逃しなく! 山田うん ダンス公演 ◎10月22日(土)・23日(日) 名古屋市芸術創造センター

<関連企画> トリエンナーレスクール第15回 「山田うんとまなぶ花祭-レクチャー&ワークショップ-」 ◎6月11日(土)14:00~16:30 愛知芸術文化センター12階アートスペースA ゲスト:山田うん 協力:古戸花祭保存会 定員:100名(入場無料/先着順・13:30開場)

あいちトリエンナーレ2016 ◎8月11日(木・祝)~10月23日(日) 愛知芸術文化センター/名古屋市美術館/名古屋・豊橋・岡崎市内のまちなか/他 http://aichitriennale.jp/

タグ:

bottom of page