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名建築の鼓動が聴こえてくる


このところヴィム・ヴェンダース監督には「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」など、ドキュメンタリー映画の優れた作品が続いている。かの鬼才が今度はオムニバス・ドキュメンタリー「もしも建物が話せたら」を製作総指揮。自身も短編をひとつ手掛けた。

このオムニバスでは、まず6人の監督が6つの建築物を選んでいる。ヴェンダース監督はベルリン・フィルハーモニー、ミハエル・グラウガー監督はロシア国立図書館、マイケル・マドセン監督はノルウェーのハルデン刑務所、ロバート・レッドフォード監督はアメリカのソーク研究所、マルグレート・オリン監督はオスロ・オペラハウス、カリム・アイノズ監督はフランスのポンピドゥー・センター。いずれ劣らぬ名建築に、監督たちは“人格”を与え、ストーリーを浮かび上がらせた。おかげで観る者は建物に命を感じ、彼らの言葉に引き寄せられていく。

監督それぞれの映像美で彩られた世界の名建築は見るだけで惚れ惚れしてしまうが、筆者は特にベルリン・フィルハーモニーとオスロ・オペラハウスが印象に残った。まずハンス・シャロウン設計のベルリン・フィルハーモニーは、舞台が中央にあるコンサートホールの先駆的存在。それを囲む客席も滑らかな円形ではなくギザギザに入り組んでいて、それぞれの席から見る風景はどんな感じなんだろう?と興味津々。もちろんベルリン・フィルハーモニー交響楽団の演奏も味わえるから嬉しい。クラシック音楽への造詣は深くないけれど、表現と表現者を紹介する身としては、一度は会ってみたい建物だと思わされた。

一方、スノヘッタ建築事務所設計のオスロ・オペラハウスは、外観を観た瞬間、同じくドキュメンタリー映画の「バレエボーイズ」を思い出し、あの建物の中でプロを夢見る少年ダンサーたちが頑張っていたんだなあと、しみじみ。2008年完成の比較的若いオペラハウスなので、この先もっと大勢のダンサーたち、歌手たちの汗と涙を吸うのかと思うと、美しく親しみやすい構造ばかりに気をとられてはいられなかった。

この映画を観ていると、建物の鼓動が時計の針の拍子でトクットクッと聴こえてくるよう。彼らは何十年あるいは何百年と時を刻み、人間の歴史に寄り添ってきた。映画館を出る時にはきっと、建物の鼓動に、呼吸に、その声に、耳を傾けてみたくなるはずだ。

「もしも建物が話せたら」 ◎3月12日(土)~、名演小劇場にて公開 http://www.uplink.co.jp/tatemono/

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