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女3人+男2人+…プリシラーズ見参


瀬辺千尋が享年50で他界してから2年が経とうとしている。名古屋を拠点に役者、劇作家、プロデューサーとして活躍した瀬辺。さりとて女傑という感じではなく、筆者などは親愛の情をこめて“おばあ”とか“ちーちゃん”と呼び、親友と3人で酒を呑んだり、愚痴をこぼしたり、旅行に出掛けた。そんな瀬辺の遺志を継いで、ひとつの芝居が上演される。

新作「四人姉姉(よにんあねあね)」は、瀬辺と親交の深かった役者・金原祐三子との会話に端を発している。2007年12月、瀬辺と金原はたまたま劇団B級遊撃隊の公演で隣り合わせて観劇。チラシ束の中に流山児★事務所の「オールド・バンチ」を見つける。これは東京のベテラン演劇人たちが高齢にもかかわらず役者に立ち返って奮闘した異例の企画で、瀬辺と金原は「うちらも、こういう芝居をやらない?」と盛り上がった。

「当時はまだ40歳をちょっと過ぎた頃で、『30年後ぐらいかな?それだと誰もいないか!?』とかいう話で、還暦にしようってことに」とは、金原。

金原祐三子(左端)

奇しくもB級の主宰にして劇作家の佃典彦、演出の神谷尚吾も同じ年齢。そこでふたりに作・演出を依頼して、話はトントン拍子にまとまっていく。ところが、金原が劇団ジャブジャブサーキット時代から気になっていた役者・長尾みゆきを誘ったまではいいが、瀬辺がけっこう先輩の(!)火田詮子を誘ったことから“同い年”というコンセプトは崩れる。しかも瀬辺は、誰にも断りを入れず、この世から姿を消してしまうのだった。金原は言う。

「生前に一度だけ集まったこともあるんですよ。公演に向けて500円貯金をしようって話もしていて、残り15年を切ったけど貯めてる?とか焦ったり(苦笑)。火田さんの件は瀬辺いわく『歳は違うけど、私らが還暦の時、70歳ぐらいになっている詮子さんってカッコイイと思わん?』って言ってましたね」

左から火田詮子、長尾みゆき

幻になりかけた企画を実現へと結びつけたのは、神谷だったという。

「亡くなった日か翌日、とにかくすぐ神谷くんから連絡があって『アレ、やろうよ』と」

こうして、瀬辺が提案したタイトルをそのまま受け継ぐ形で佃が「四人姉姉」を書きおろし、彼女の思い描いた「いい歳の姉ばっかり出てくる芝居」は動き出す。ユニット名は、瀬辺が営んでいた「bar Priscilla」にちなみ「四人姉姉実行委員会プリシラーズ」だ。

「亡くなった知らせがきてすぐ金原に連絡したのは、勢いだったと思う。ただ、この企画のことはずっと気にしていたし、次に誰が逝くかわからないなと思って(苦笑)」と神谷。

なお、プリシラーズは追悼の意味で公演を行うわけではない。あくまで、やろうとしていたことをやるだけ。還暦を待たないのは神谷の言葉どおり、人間の時間は有限だからだ。そして「四人姉姉」の物語にも〈生と死〉の問題が浮かび上がる。神谷に聞いた。

「佃さんには、映画『グロリア』みたいに、青春が終わってしまった後の女性の話にできないかなって言った気がします。50歳を過ぎてまた気持ちも新たに、生きること死ぬことを芝居にできたらいいなと」

立って演出をつける神谷尚吾

舞台は生涯教育センターの第二集会室。カナはトモちゃんと大学の旅行研究会で出会い、旅研のメンバーと卒業後も年に一度は旅をしようと約束してはや30年が経つ。仲間もずいぶん減り、今や4人。そのうちのノッポンは旅研とは無関係で、川上さんに至っては素性もよくわからない。そして川上さん以外が50歳を迎える年、生誕半世紀を記念して、4人はベニスに行こうと話していた。しかし、言い出しっぺのトモちゃんは、もういない――。

「トモちゃんが亡くなってから最初の会議という設定で、彼女がいなくなったことによって、残る3人の関係に“ひずみ”が生じます。死んだ人のことをずっと言っている芝居にするのはイヤなので、登場人物が自分を見つめ直す時間にしたいですね。大きな事件はなく、しいて言えば全員が骨折するぐらいかな(笑)。小さな事件を拾い出して、どうドラマを立ち上げていくかが問題。その上で、トモちゃんの“不在”の大きさを示さなければ……。あと、四方を客席で囲むセンターステージにするんですけど、プロレスのリングのようなイメージにできたらいいなと考えてます」

他にも、生声ではなくマイクを使って長台詞を言う趣向があり、神谷は「弔辞みたいな感じになれば面白い」と、貪欲な演出ぶり。一方で「瀬辺の死を受け止めて、作品とか表現にまでもっていくには早過ぎたかもしれない」と本音も漏らした。

千秋楽の1月24日(日)は、瀬辺の命日。きっとニヤニヤしながら、どこかから同志たちの芝居を観ているはずだ。

四人姉姉実行委員会プリシラーズ 「四人姉姉」 ◎1月21日(木)~24日(日) 木19:30 金14:00/19:30 土14:00/18:00 日11:00/15:00 損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール 前売2800円 当日3000円 中高生前売1500円(予約のみ) http://www.geocities.jp/avec_beads/annai_priscillaaaas.html

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