“鉄道劇”に揺さぶられて……
劇作家・演出家の坂手洋二が自身の率いる燐光群で新作「お召し列車」を発表。東京公演を終え、間もなく名古屋にもやってくる。すっかり常連の客演、ベテラン・渡辺美佐子を迎えておくる今回は、ハンセン病の歴史的悲劇と東京オリンピックに向かう現代の喧騒を結び付け、坂手の好評シリーズ“鉄道劇”に仕立てているから面白い。公演に先駆けて、看板俳優の猪熊恒和、若手の川崎理沙に手応えなどを聞いた。
猪熊「渡辺さんが83歳なんですけど、ハンセン病の方々も80代となり、今やっておかないと生きた証人に話を聞けなくなるということもあり、このタイミングでの上演につながりました。ハンセン病には患者が隔離されたという重い事実がありますが、芝居としては明るく軽くリズミカル。患者を演じる渡辺さんもチャーミングだし、セクシーでもあるんですよ」
今年は映画「あん」の公開もあり、国が封印してしまいそうなハンセン病の史実にあらためて光が当たっている。ちなみに、「あん」の原作者・ドリアン助川は「お召し列車」東京公演のアフター・トークに登場したそうで、様々な意見が交換された様子。ただ、「お召し列車」で問い直されるのは、生きる意味だけではない。東京オリンピックに向けた“おもてなし”イベントとして3つの企画が提案され、10人の審査員がどれにするか話し合うという物語には、日本の抱える問題が様々に詰め込まれている。
猪熊「企画は、天皇陛下を乗せた特別車両の“お召し列車”を走らせる案と、それを模したようなちょっと豪華な旅列車“ジョイフルトレイン”を走らせる案、そしてハンセン病患者を国立療養所に移送するために運行した“お召し列車”を走らせる案の3つです。もちろん坂手のフィクションですが、お召し列車にふたつの意味があるのは本当のことです」
渡辺演じる主人公は、このコンペに巻き込まれ、東北から岡山まで列車に揺られることとなる。瀬戸内には、彼女が青春期を過ごした療養所があり……。こうしてハンセン病患者の受けた非人道的な仕打ちが明らかになっていく。
川崎「岡山の国立療養所に高校を併設していた時期があるそうで、それがモチーフになっています。そして主人公は、過去に移送されたルートを再び辿ることに……」 猪熊「その途中で彼女は、これまで受けた迫害や差別、その傷をもう一度確かめることになります」
生半可な傷ではないものを直視するのは辛いが、目を背けている場合じゃない。それは、コンペの議論も同様かもしれない。
猪熊「コンペの結論は、『12人の怒れる男』じゃないけど、全員一致じゃないとダメなんですよ。裁判員制度と似ていて、何かを選択することに矛盾を抱えながらも『果たしてどちらか?』ということは考えなくてはならない。芝居としては、精一杯の議論をし尽くした感はあるんですけど、爽快ではないかも。でも今は、わかりやすいカタルシスなんて必要ない気がしているんです。それでも結局、朝は来るというのか。だから『思考を停止させるな』という想いはありますよね。それは『諦めるな』ってことでもある」
このあたりに、ハンセン病の過去と東京オリンピックに向かう現在、ひいては未来との交差点もある気がしてならない。何事も多数決、数の論理が幅をきかせる現代日本に、全員一致を突きつける坂手一流の皮肉。しかも東北から岡山へと走る列車の車窓には、当然、福島の現在も映し出される。彼らの乗った列車が行き着く先は、この国の終着駅なのだろうか。いや、きっと違う。猪熊が言うとおり、私たちは、諦めるにはまだ早い。
燐光群「お召し列車」 ◎12月19日(土)・20日(日) 土19:00 日14:00 愛知県芸術劇場小ホール 一般前売3600円 ペア前売6600円 当日4000円 U-25(25歳以下)2500円 高校生以下1500円 http://rinkogun.com/