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広末涼子が「はなちゃんのみそ汁」への想いを語る


がんのため33歳で夭逝した安武千恵のブログを基とするエッセイ「はなちゃんのみそ汁」は、発売以降さまざまに反響を呼び、関連書籍やテレビドラマを生む一方、教科書にまで取り上げられた。そして今度は同名の映画となって、かけがえのない時間がよみがえる。来年1月の公開に先駆け、主演の広末涼子が撮影の様子や完成までの苦労を語ってくれた。

「千恵さんは、まっすぐ正直な方だったので共感できるところが多く、とても自然に演じることができました。私自身、千恵さんのドキュメンタリーを拝見して胸がいっぱいになった視聴者のひとりでしたので、お話をいただいた時は光栄でもあり喜んでお受けしたのですが、千恵さんの話を知れば知るほど『映画でしかできないものは何だろう』と考えるようになって……。原作はノンフィクションですが、映画ならではのフィクションとして描く方法はないだろうかと。それで監督に脚本を練っていただいて、死や病の問題とは矛盾するかもしれませんが、千恵さんの笑いや笑顔を大事にしていた部分をクローズアップすることで、テンポのいい、広い観客層に楽しんでいただけるものになったと思います。脚本で映画のテイストが変わるのは初めての体験でした」

物語は、乳がんの告知を受けながらも結婚、妊娠、出産を果たす千恵の闘病記。がん治療の過酷さは多くの人がご存じだろうが、千恵は家族や自らの不安を吹き飛ばすように笑顔や笑いの精神を絶やさない。それには夫・安武信吾のキャラクターも大きく影響!? この信吾役には活躍著しい滝藤賢一が配され、また新たな魅力を爆発させている。

「阿久根知昭監督が安武さんとお知り合いで、安武さんご本人の持つコミカルさやユーモラスなところを、滝藤さんに吹きこんでいったように思います。笑いのお芝居は難しく、できあがってみると意外に面白くないこもとあるんです(苦笑)。でも、滝藤さんのお芝居を拝見すると「さすがだな」と。ただ、滝藤さんは役に入るとすぐ泣いちゃうんですよ。すぐ目が潤んできてウサギみたいでした(笑)。私が『早いよ!』って思うほどすぐ泣かれるので、逆に『こちらは泣かないぞ』と我慢できたこともありました(笑)。がん細胞がなくなって抱きついて喜ぶ場面や、海岸でのやりとり、コンサートの場面など、滝藤さんにはアドリブのアイデアもいっぱい出していただきました。本当に安心感のある役者さんです」

また、千恵の愛娘・はな役には、オーディション参加者1000人以上の中から無名の新人・赤松えみなが選ばれ、演技経験ゼロならではの初々しさで観る者の目を細めさせている。

「監督には事前に『4歳の子どもというのは本当に“小さい怪獣”ですよ』とお伝えしたのですが(笑)、えみなちゃんがハードな撮影の中で健康面・精神面を保てるかが心配でした。そこで、えみなちゃんに関しては撮影一発OKにすると決めて、大人が万全の準備でのぞむことにしたんです。結果、えみなちゃんの子どもらしい姿や生き生きとしたところを、この映画のエッセンスとして取り込めたことはよかったと思います。えみなちゃんも現場が大好きで、いつも元気でいてくれたのでよかったです」

滝藤やえみなちゃんとのエピソードには、広末自身が母であるゆえの意識もうかがわせる。その前提には、女性として千恵に感じるところが大きい様子。千恵は万が一の時に家族がしっかり生きていけるよう、はなちゃんに鰹節の削り方から手ほどきし、みそ汁作りを教え込むが、そこに広末は母親の愛情だけではないものを感じ取っていた。

「我が家では信州の合わせみそが基本で、具材はワカメ、豆腐、玉ねぎが定番です。玉ねぎは甘みが出るから好きです。体を作っていくうえで“食”はとても大切だと思います。それと、千恵さんは闘病中も笑顔や笑いを大切にしていますよね。みんな笑顔でいたいと思っていても、病状などによって実際にはできないことも多いだけに、千恵さんのポジティブさを尊敬します。娘さんへの想いや態度も、優しさと強さの象徴ですよね。ブログを書き始めるという行動力も、仕事を持つ女性が増えている現代では心強い存在に映るのではないでしょうか。千恵さんとは、この世界で会えなかったことが残念ではありますが、この役に出会えたことを感謝したいと思っています」

ちなみに、ご家族とはすでに何度か対面しているとのこと。

「製作発表の日に初めてお会いしたのですが、安武さんとはなちゃんの中で千恵さんが生きているのを感じましたし、お二人のいちばん大事な存在を演じる責任も感じました。ただ、はなちゃんに『どんなお母さんでしたか』と尋ねたら、『えっ? 怖かったですよ(苦笑)』と返ってきたんです。その正直で美化されていない印象をうかがったら、ひとりの母親として媚びることなくフラットに演じられる気がしました。はなちゃんには映画完成後まだ再会していませんが、安武さんには試写の際『千恵に見えました』と泣きながら最高の褒め言葉をいただきました。安武さんは、コンサートの撮影に立ち会われた時も大号泣なさったんですよ(笑)。でも、この時は千恵さんが降りてきてパワーをくれたのではないかと思うほど素晴らしいシーンが撮れたんです」

この映画は、ひとつの実話から生まれた普遍の家族ドラマだ。広末には最後に、いま映画に思うことを尋ねてみた。

「私は演じることが好きなんです。演技を通じてメッセージを発することもできますし、昔から演じることは夢で、天職だと思ったほどですから。そして今は、使命だとも感じています。演じる仕事を通じて社会と関わっていけたらいいなと。テレビドラマでも舞台でも映画でも、フィールドを気にせずタイミングや出会いを大切に役と向き合ってきたつもりですが、映画館で観る映画は特別な時間ですよね。作品ができあがった時、共演者やスタッフと分かち合うものにも代えがたい何かがあります。映画は、永遠の憧れの場ですね」

「はなちゃんのみそ汁」 ◎2016年1月9日(土)~、伏見ミリオン座、TOHOシネマズ 名古屋ベイシティ、イオンシネマ大高ほか全国ロードショー http://hanamiso.com/

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