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アンドロイド演劇が衝撃の映画に!


バラエティ番組「マツコとマツコ」でも広く知られるようになったアンドロイドの存在。筆者が初めてアンドロイドを見たのは、あいちトリエンナーレ2010で発表された演劇「さようなら」の舞台上だった。同作は、青年団の劇作家・演出家である平田オリザとTVでもおなじみ大阪大学の石黒浩が中心となり、ロボット演劇に続くアンドロイド演劇として世界に先駆け愛知で初演。人工のアンドロイドが人間の役者と対等に表現する姿には驚き、心を激しく揺さぶられた。そんな当地にも縁の深い作品が、映画となって帰ってくる。

青年団演出部所属にして、映画「歓待」「ほとりの朔子」ほかで国内外の評価を受けてきた監督・深田晃司が、平田の戯曲を大幅に膨らまし、長編として映像化。死を前にした主人公と彼女に寄り添うアンドロイドの関係を通じて<生と死>を浮かび上がらせた原作の趣きはそのままだが、放射能に侵された近未来の日本という新たな設定は衝撃的だ。

アンドロイド演劇でも新人ながら主演を務めたブライアリー・ロングが、再び主人公ターニャを体当たりで熱演。彼女は今回、監督らとともにプロデューサーにも名を連ねており、思い入れの強さが伝わってくる。肝心のアンドロイド“ジェミノイドF”はもちろん、演劇版には登場しない恋人役に新井浩文が配されるなど、共演にも確かな顔ぶれが揃った。

放射能汚染にはじまり難民や人種差別、あるいは結婚や離婚、家族の問題……、滅びゆく極限状態の日本を背景に描かれる様々なエピソード。一種のSFでもある架空の物語が、なんとも言えない不気味なリアリティをもって迫ってくるから、胸がふさがれる。

ただ、アンドロイドのレオナが読んでくれる詩の数々には、ターニャと同じく癒される想いも。谷川俊太郎やアルチュール・ランボオ、カール・ブッセ、若山牧水らの作品は、聴く者の心の奥底へと静かに優しく響いてくる。またターニャの家がある大自然の風景も、皮肉なまでに雄大で美しい表情を見せる。そしてラストシーン。レオナの思いがけない行動とその結末は、ひと筋の光なのだと願わずにいられなかった。

「さようなら」 ◎12月5日(土)~、センチュリーシネマにて公開 http://sayonara-movie.com/

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