音楽と絵と踊りで起こす、つむじ風
ライブハウスのK.Dハポンで、いい顔合わせのコラボレーションが実現する。小説誌「PONTOON」(幻冬舎)で町田康作品に挿画を描き下ろすなど、活躍の幅を広げている画家・ヨコヤマ茂未。名古屋の名物劇団・少年王者舘の看板役者であり、近年は振付で外部公演にも多忙な夕沈。ふたりの企画で、チェロの坂本弘道、アコーディオンのryotaroを迎え、音楽と絵画とダンスのライブを敢行する。一体どんな内容になるのか、立役者のひとり、ヨコヤマに話を聞いた。
「夕沈とは積年の長電話友だちで(笑)、以前から何か一緒にやりたいと話してたんですけど、少年王者舘がパスカルズと合同公演を行ったこともあり、夕沈はメンバーの坂本さんとももっとやりたい気持ちが膨らんだようなんですよね。そこで私は、去年、結構ご一緒させてもらったアコーディオンのryotaroさんにお声掛けして、4人でやることにしたんです。私は坂本さんと初めてで、夕沈はryotaroさんと初めての共演なので、バランスもいいんじゃないかと。ハポンの密な空間に四つの世界を存在させるというか、距離を縮めすぎず、それぞれの世界観が1日だけ交錯するような場になればいいなと思ってます」
ユニット名は、びゅんビュン画報。「ヴィント」という題名はドイツ語の「つむじ風」からとったそうで、“風”が全体のテーマになっている。
「女優の火田詮子さんに言われたんですけど、私の絵は奥に風が吹いているように見えるんですって。私は夕沈を見ていると、舞台に風を起こすような役目を担っているなと感じるんですよね。遠心力が掛かっているような踊りというのか。だから、ふたりに共通する“風”をテーマにしてみました」
ヨコヤマと夕沈が往復書簡のごときメールを駆使して(?)構成する舞台は、不条理な物語と即興の2部から成る。ヨコヤマは音楽、ダンスと渡り合うべく、絵でも即興に挑むという。ただ、案外あらかじめ作られた物語に当てる絵の方がちょっと見モノ。なぜなら、その絵もリアルタイムで描くからだ。「変な紙芝居みたいになる」とはヨコヤマ。なお、即興は4人だったり、組み合わせを変えて二人ずつだったり。音楽だけの時間も作るとか。あらためて、ふたりのミュージシャンについて尋ねてみた。
「ryotaroさんの演奏は“血で弾く”といった印象を受けるんですよ。そして、アコーディオンが生き物のように見える。普段は即興中心で、身体的な奏者だなと思います。見た目は、身長も高くてカッコイイですよ、おじさんだけど(笑)。柔軟で安心感があって、坂本さんも同様ですけど、経験値が高いからケンカにも胸を貸してもらえそうです(笑)」
ここで夕沈から電話あり! 彼女が、坂本さんへの尽きせぬ想いを語ってくれた。
「坂本さんとは舞台を何度か一緒にやっているので、付き合いは長いんですよ。坂本さんのチェロは、突き抜けた感じがあって、深くて、透き通っていて、優しくて……。私の身体が重力に縛られているとしても、包み込んでくれるような感覚があります。正直ひとりで踊ることの意義は、いまだわからないところもあるんです。それでも坂本さんの音楽はとにかく好きなので、きちんと向き合ってみたくて。ただ、偉大すぎて怖さもありますけど。ストリングスの特色なのかな、他の楽器の間みたいなところで自在な音色を出しますよね。私は“あいだ”とか“狭間”が好きなんでよ。坂本さんには小ちゃい穴を通っているような(繊細な)感覚も受けるし、音を出す時の顔もいいんです。その音を聴いていると、たまらん、飛んでいきそうって気持ちになって、踊りたい衝動に駆られる。せつないほど尊敬してますね。それに音楽や共演者に対する姿勢が常にフラットで、いつも在るがままの坂本さんだから、すべて大丈夫だという気にさせてくれるんです」
話を聞いていると、音楽に対する考えは、ふたりとも通じるところがある。ヨコヤマは「音楽には憧れている。絵は音楽に成り得ないんだけど、届かないことを思い続けるというそのコンプレックスが、私に今回のような行動を起こさせるんだと思う」と。夕沈も「音楽にはずっと片思い。ダンスに音楽は不可欠だけど、音楽にダンスは必要なわけじゃないので……。王者舘に入ったのも最初は演劇への興味じゃなく、ぴんちゃん(長谷川久)の曲のファンになったことがきっかけだったし、私は音楽があったから生きてこれた」と。
全然違うタイプでありながら、どこか通じてしまうヨコヤマと夕沈。先輩アーティストおふたりを巻き込み、まさに「びゅん!ビュン!」と風を切って、全く枠に収まらない表現を放ってくれるはずだ。
びゅんビュン画報「ヴィント」 ◎12月11日(金)19:30 K.Dハポン 2500円(別途ドリンク代500円) http://kdjapon.jimdo.com/