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監督・大森一樹 × 主演・松坂慶子によるオトナの悲喜こもごも


ベテラン・大森一樹が意外にも松坂慶子と初めて現場を共にした監督最新作を公開する。小松みゆきの同名著書を原作に、日本・ベトナム合作で生まれた映画「ベトナムの風に吹かれて」は、松坂が演じるハノイ在住の日本語教師・みさおの奮闘を描いた物語。異国情緒の漂うなか、母親の介護や女性の自活、あるいは戦後史などシリアスな問題が様々に絡み合うが、後味は不思議と爽やかだ。大森監督に話を聞いた。

「吉川晃司の映画を3本ほどプロデュースしてくださった岡田裕さんから、久々に声を掛けていただいたんですよ。漫画やゲームを原作とする若者向けの日本映画が増え、僕らの居場所がなくなってきているのを感じていた時でしたし、日本映画史上初めてベトナムと合作で海外撮影をするというので、今までにない日本映画になるかもしれないと思って引き受けました。その時点で企画はすでに進んでいて、重い題材を扱うことになるのもわかっていたんですが、同時にエンタテインメントにしてくれという要望もあり、これは腕の見せどころだなと思いましたね。できあがってみると、こういう映画があっていい、まだまだありうるぞという手応えもありました。僕はやっぱり娯楽映画の系譜にいるんですよね。なぜなら、自分たちの観てきた映画がそうだったからなんです」

主人公みさおは、父親の他界後、認知症の母シズエを兄のもとから引き取り、ハノイで同居生活を始める。周囲の人たちの温かさにも支えられて母親がベトナムの空気に溶け込んでいく様子を、みさおは安堵の想いで見ていた。そんなおり旧友・小泉と再会して、ロマンスの気配も……。しかし、人生うまくいくことばかりじゃない。シズエが怪我を負ったせいで介護が激化。みさおも徐々に疲労を募らせていく。

「介護の終盤は、シズエを演じる草村礼子さんとも話し合いながら、あまり辛くなり過ぎないよう台詞などに配慮しました。また、松坂さん自身もお母様の介護をしていらっしゃるそうなんですよ。だから、みさおの対処の仕方については松坂さんとも相談したので、リアリティのあるものになっていったと思います」

ちなみに、ほのかな恋のお相手(?)・小泉役は奥田瑛二。大森監督いわく「奥田さんは、まだキレイだよね(笑)。みさおと小泉の部分はメロドラマにしたかったから、やっぱり美男美女じゃなきゃ」とのこと。なお、監督と旧知の仲の吉川晃司も友情出演している。

ハノイを舞台にしながら日本の抱える問題が浮き彫りとなった同作には、日本の戦後というものを、ベトナムを通して見てみる狙いも。日本からの旅行先として人気の国ではあるが、本作を観ると、よく知らなかったベトナムの姿にハッとさせられる。

「経済成長著しいベトナムは、若者が多くて老人の少ない社会だから、かつての日本のようとも言えますよね。映画には残留日本兵の悲しい史実も織り込んでいますけど、現地で過ごした感覚では、ベトナムの人たちは100%近く日本人に好意的でしたね。過去にこだわらないのか、未来志向なんですよ」

交通事情や神事のような日常の生活に密着したことから、伝統歌劇のチェオといった非日常の舞台芸術まで、この映画ではベトナムの文化を随所に見られる。かの国をもっと知ることで、両国の未来がより良いものになればいいなと思う。

「ベトナムの風に吹かれて」 ◎10月24日(土)~、名演小劇場にて公開 http://vietnamnokaze.com/

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