京都の新進劇団が紡ぎだす、遠くて近い、あるいは近くて遠い物語
時代時代でハイレベルの舞台芸術を発信してきた京都から、また新たな才能が出現。代表の中谷和代と俳優の藤原美保による劇団“ソノノチ”が名古屋に本格上陸する。彼女たちは昨年末の演劇イベント「ミソゲキ2014」で当地に初登場。今回その際に上演した「4人の『これからの宇(そら)』」を長編化、「6人の『これからの宇』」と題して新たに発表する。作・演出を手掛ける中谷に、これまでの歩みも含め話を聞いた。
「私が高校生の時、ヨーロッパ企画や劇団衛星が登場して、京都の演劇シーンが活気づいていたんです。私も追っかけのような感じで観ていたので、大学に入ったら自分も演劇をやろうと考えていました。子どもの頃から、絵や小説など何か作ることは好きだったんです。そこで、まず滋賀の成安造形大学に進学してメディアアートを学ぶことにしました。恩師にはダムタイプの泊博雅さんもいます。そして演劇部にも入ったんですが、自分自身でもっと脚本や演出を手掛けてみたくて、学校外でも演劇活動を始めることに……。大学を卒業してからは名古屋の会社に就職。2008年には、昔の仲間と社会人劇団を開始しました。その後、退職・転職を経て、2013年、実家のある京都でソノノチを立ち上げたんです」
世代の離れたダムタイプの名前がさらりと出てくるあたりに、あらためて京都アートシーンの密度や豊かさを痛感。また、思いがけない名古屋とのゆかりには驚かされ、親しい気持ちも沸き起こる。それにしても、なぜ敢えて演劇という表現を選んだのだろうか?
「自分の感覚を表現するには何がいちばんいいか考えた時、空間のコントロールが向いているような気がして。以前、五感を測定してもらったことがあるんですけど、私は他の人より1.4倍、敏感らしいんです(笑)。リアルタイムで人がいて、何かをしている、存在しているのが演劇だとしたら、その空間すべてをコントロールしたいんです。また、私たちは“ソノノチノチ”とうたって会場で手作り雑貨を販売したりするんですが、ジャンルを越えて交ざり合う余地がほしいなと思うんですね。舞台芸術はもちろん、美術やデザインなど、それぞれの専門分野の能力を持ち寄って新しい可能性が見いだせればいいなと。そういう意味でも、総合芸術である演劇は自分に合っているのではないかと考えています」
演劇の新しい地平を模索する中谷は、基本的に年2回の公演で同じ主題を扱い、1年を通じてひとつのテーマに取り組むという試みを行っている。「これからの宇」が4人バージョンに続いて6人バージョンで上演されるのも、そういう理由から。「一回やっただけでは課題が残る。2作品にすることで見えてくるものが、自分たちの実験としても面白く思えた」と中谷は語る。そんな彼女とソノノチが志す演劇は「観たら、そののち幸せになれるような、劇場から普段の生活に戻った時に『明日も頑張ろう』『また生きていける』と感じてもらえるような、光あるもの」だ。そして今度の「これからの宇」は、まさに「幸せとは何か」という真実に迫る物語。題材は、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」――。
「ひとりの主人公が生きていく1年と、“宇宙カレンダー”が一緒に進む芝居です。主人公・ちいちゃんは25歳なんですが、25年を1年として宇宙創生の話が並走していくという……。ちいちゃんと宇宙の成長日記であり、それは、ちいちゃんの両親が書いている成長日記とも重なっていきます。家族などの身近な人と宇宙の在り様、両者は似ていると思うんですよね。近いのに遠く感じることもあれば、遠いようで自分を取り巻いているとも言える。その近かったり遠かったりする距離感を表してみたいと思っています」
*舞台写真は上から、「ものがたりの書き物」(2012年)、3人の「さよならの絲(いと)」(2013年)、8人の「さよならの絲(いと)」(2014年)
ソノノチ
6人の「これからの宇(そら)」 ◎10月17日(土)・18日(日) 土15:00 日11:00/15:00 ナビロフト 一般2500 円
学生割2000 円(要予約・要証明)
3人割6000円 http://sononochi.com/