豊田在住の陶芸作家、その遊び心と探求心
小牧市のメナード美術館において特別企画展「鈴木五郎 土に生きる 土に遊ぶ」が開幕した。鈴木は1941年、豊田市出身・在住の陶芸作家。16歳で作陶を始め、1962年に日展初入選、1966年には朝日陶芸賞を受賞。その後、海外遊学を経験して、ますます自由なセンスを開花させていった。
そんな鈴木の初期作品から最新作まで、約160点が並ぶ本展。中でも話題の的は、高さ4メートルほどある《織部の塔》だ。これまで大壺や大皿も手掛けてきた鈴木にとって大型作品はテーマのひとつたが、この《織部の塔》はメナード美術館の展示スペースに合わせて制作され、53ピースから成る。鈴木に聞いた。
「この展覧会に向け、ちょっと張りきらなかんと思って、大きい作品に挑みました。ばらばらに焼いて組み立てているんですが、細かい下図などは描かず、頭の中のイメージに沿って、だいたいのアーチを合わせていくんです。土は収縮しますし、どう曲がるかも長年の経験で察知して叩きました。今回は直径2メートル弱ぐらいですが、どこまでも大きくできる作品なんですよ」
《織部の塔》を横に作品を語る鈴木五郎
なお、順路の最後には《織部の塔のための習作》を見られ、先に見た《織部の塔》と打って変わって小さな姿に、思わず愛しさを感じてしまう。
また新作では、志野やボーンチャイナほか異なる技法の皿32枚が1組となった《ディナープレート》も壮観。その中には、五郎の“五”と千利休の“利”と古田織部の“部”を掛け合わせた「五利部(ごりべ)」や、最初の渡米先に由来する「ロスオリベ」といった、鈴木オリジナルの技法も目を引く。
「五利部は、酸化と還元の両方が起きていて、通常では考えられない技法。成功までには研究や遊びを重ねて3年ぐらい掛かりましたね。《ディナープレート》は、アメリカで食事に招かれたとき注文を受けたんですけど、やれば今後の勉強になるだろうし、次のステップも踏めるんじゃないかと…。僕は、人生ワンパターンになることがイヤで、自分自身に退屈してしまうから、良くても悪くても変えていきたい性質なんですよ。仮に『去年の方がよかった』と言われたとしても変えたい」
こういう考え方も、創造の原動力なのだろう。「物作りは大変だけど、苦に思ったことはない。ものを作るということは、子どもの時と一緒で“遊びながら”の感覚なんです」と語るとおり、大ベテラン・鈴木には少年さながらの心が今も宿っている。
ちなみに、新旧作品の随所に見られる「カラス」のモチーフは、小学生時代に飼っていた思い出から来ているんだとか。どうやら鈴木の分身・化身の意味合いもあるようで、賢さと同時に、どこかユーモラスな気配をたたえているあたりも面白い。
*写真はすべて展示風景
特別企画展 「鈴木五郎 土に生きる 土に遊ぶ」 ◎7月24日(金)~9月23日(水・祝)まで メナード美術館にて開催 http://museum.menard.co.jp/