奇才/鬼才の言葉と心に出会い直す
亡き作家・中島らもの名エッセイで構成される「中島らも エッセイ・コレクション」が、命日を前に刊行された。2004年7月26日、52歳で他界した中島。この世にいない著者の想いを汲み取るかのように、長年その仕事を支えた編集者・小堀純が新たに編んでいる。
「生いたち・生と死」「酒・煙草・ドラッグ」「文学・映画・笑い」「不条理と不可思議」「性・そして恋」という5章立て。各章のテーマは中島と切っても切り離せないものばかりだ。コピーライター、小説家、劇作家、俳優、ミュージシャン……。多才にして多彩に活躍した中島のすべてが詰め込まていることを、目次を見ただけで予感させてくれる。
中島一流の笑いに満ちた文章が大好きだが、まがりなりにも出版物制作に携わる者としては、印刷会社の営業マンだった頃の失敗談なども沁みる。また、何度も読んで知っているエピソードにも不思議な新鮮さがあり、あらためて故人と出会い直す心地がして楽しい。
おっとりした口調や洒落っ気のあるトークでも思い出される中島だが、社会の理不尽には激しく怒り、弱者にどこまでも寄り添う優しい人であった。そういったところは文章の随所から感じ取れるだけに、ふと思う。もしも中島が生きていたら、今の社会にどんな言葉を放つだろうかと――。
しかし、中島の不在を嘆き悲しんでいる暇はない。「らもさんだったら何を言うだろう」と考える時間があるならば、たかが紹介屋の身なれど少しでも多くの文章を書き、何事かを世に問い掛けていかなければならないのだ。
中島らも エッセイ・コレクション 中島らも・著 小堀純・編 950円(税別) 筑摩書房 http://www.chikumashobo.co.jp/