top of page

時を越えて、光の中へ――女性画家モリゾの生き方


「画家モリゾ、マネの描いた美女~名画に隠された秘密」は、ベルト・モリゾ没後120周年記念作品なのだが、このモリゾという女性画家を知らない人は多いだろう。彼女を開眼させた画家マネの名前は知っていたとしても、モリゾは知らない。その背景には、彼女の生きた時代や社会の問題がある。

1841年にフランスで生まれたベルト・モリゾは、県知事の父親のもと裕福な生活を送ってきた。その表れのひとつが、2番目の姉エドマとともに励む絵画。美術や音楽に通じていることは上流階級の“たしなみ”だったからだ。しかし絵を描くということ、その表現欲求は、たしなみの範疇に収まるとは限らない。姉妹は権威あるサロンへの入選を目指して切磋琢磨。そんな頃、彼女たちはセンセーショナルな話題を集めていた画家マネに出会う。

ルーブル美術館で模写する姉妹に目を止めたマネは、気まぐれのように絵を指導して去るが、後日、ベルト宛てにモデルの依頼が届く。ここから、ベルトとマネの創作をめぐる関係がひも解かれていくことに……。

マネに片思いの姉エドマや、マネの弟子の美女、何よりマネの妻や子の存在も絡みながら、徐々に距離を縮めていくベルトとマネ。マネが彼女をモデルに描いた代表作《すみれの花束をつけたベルト・モリゾ》や《バルコニー》の創作過程にも迫りつつ、大人の男と女のやり取りが交わされる展開にはドキドキしてしまう。

また、女性ならば誰もが大なり小なり共感するのは、ベルトが画家として自立した生き方を獲得しようとすることだ。結婚して貞淑な妻や母になることを当たり前のように求められた時代。たしなみや趣味で絵画を終わらせず、家族や社会からのプレッシャーに立ち向かいながら孤軍奮闘するベルトの凛とした生き様には、容貌以上の美しさがある。

そんなベルト・モリゾを演じたのは、「ココ・シャネル」のマリーヌ・デルテリム。またマネには、フランソワ・オゾン監督「焼け石に水」のマリック・ジディ。そして監督は、カロリーヌ・シャンプティエだ。彼女はジャン=リュック・ゴダールやジャック・ドワイヨン、レオス・カラックス、諏訪敦彦、河瀨直美ら名立たる才人の撮影監督を務めてきたが、監督として長編作品を手掛けるのは今回が初めて。シャンプティエ自身、女性表現者として様々な現場で闘ってきたことも、この映画のリアリティにつながっているのだろう。

19世紀フランスで、戦争の悲劇にも遭いながら、愚直なまでにコツコツと絵を描き続けたベルト・モリゾ。彼女は近年、印象派の重要人物として再評価が進んでいる。実際、記念すべき1874年の第1回印象派展にモネやルノワールらと参加。マネの弟との結婚(!)、出産も経験するが、その後も印象派展には新作を出品している。女性としての変遷を遂げ、身近な画題に独自の“光”を描いたモリゾだが、時を隔てて今、彼女自身が光を浴びようとしている。

「画家モリゾ、マネの描いた美女~名画に隠された秘密」 ◎6月27日(土)~、名演小劇場にて公開 http://morisot-movie.com/

タグ:

bottom of page