ジャブジャブサーキットが描く、屋上と諦め……!?
岐阜を拠点に全国的な活躍を見せる劇団ジャブジャブサーキットの主宰・はせひろいちが、とうとう手を出してしまった!? いやいや、ヤバイものではない。「さよならウィキペディア」と題し、“屋上”を舞台にした新作を書き下ろしたのだ。どうも屋上という場所は、劇作家たちを引きつけて止まないようだ。
「(北村)想さんも深津(篤史)くんも屋上を舞台にした芝居を書いてて、いつかは自分も…と思ってはいたんです。空間が自在に変わるのもいいけど、やっぱり根はワンシチュエーションが好きなんですよね。ただ、一方で演劇の場合、屋上と言いつつも後ろにはホリゾントが見えるわけで(苦笑)。だから今回は、林立するビル群の中の、忘れ去られたような屋上という設定にしました。そうすれば、空が見えなくても自然でしょ(笑)」と、はせ。
建物の一部にして、そのテッペンにあり、外界と接した地でもある屋上。そこからは、多彩なイメージが広がるという。
「空や宇宙との境界線だとか、飛び降りだとか、屋上はイメージのオンパレード。あと、昭和の生き残りのようなペントハウスがあったり……。(事故防止のため)最近どんどん上がれなくなってきているだけに面白い場所ですよね」
今回は劇作よりも演出で果敢に挑み、常道にとらわれず演劇を追求。屋上の持つイメージを自在につなぎあわせながら進行していく舞台には、胡散臭いサラリーマンや画家志望の少女、あるいは洗濯女なんて人々が登場する。バラックのようなペントハウスに住む管理人にも隠し事がある様子で、やがて“とある物質”をめぐって騒動に……。
「屋上にまつわる、ちょっとしたミステリーとファンタジーなんですよ。折り重なったイメージを通じて、細部から全体を見てもらうような芝居でもあります。タイトルは大風呂敷かなとも思ったんだけど(苦笑)、今の社会って便利さの方向性がおかしいと言うのか、少なくとも、かつて僕らが思い描いた未来像とは違っているんですよね。特に日本人は便利さに弱くて、本質が見えなくなりがち。そこに精神構造の脆さを感じる。そういったことは、ファンタジーやSF的な世界からの視点も交えなければ伝わらないんじゃないかと」
はせの危機感はリアルなものだが、さりとて社会派のメッセージとも少し異なる。おバカなエピソードも挿入される芝居は、どこか楽しげ。キャストも14人とあって、賑やかになりそうだ。そうして浮かび上がるのは、はせ曰く「諦め掛かったスローライフ」――。
「この屋上に行き交うのは、決して人生うまくいった人たちじゃない。でも僕としては『時代から取り残されてぇ~』という気持ちなんです(笑)。あるいは、観客に『取り残されない?』と誘っているというのか……」
世の中で叫ばれる成長戦略も結構だが、前進だけではいつか行き詰まり、息も詰まる。対して演劇人・はせが茶目っ気交じりに語った「退いてもいいよね~」という言葉の方が、生き生きと、たくましく、愉快に響いてきた。それこそ私たちが人生に求めることなのでは? 「さよならウィキペディア」を観れば、明日がちょっと待ち遠しくなるかもしれない。
ジャブジャブサーキット
「さよならウィキペディア」 ◎5月21日(木)~24日(日) 七ツ寺共同スタジオ 一般:前売2800円
当日3000円 大学生以下:前売2000円
当日2200円 ※平日マチネ割引料金あり。 http://www.jjcoffice.com/