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クセックACT、35年目のアラバール


創立35周年を迎えた劇団クセックACTが「アラバールからの『愛の手紙』」を上演する。アラバールとは、「戦場のピクニック」などで知られ、現在もスペインで活躍する劇作家フェルナンド・アラバール。そして「アラバールからの『愛の手紙』」は戯曲「愛の手紙――中国風殉教」に、同じくアラバールの代表作「建築家とアッシリア皇帝」を織り交ぜた一種のオリジナル。主にスペインの作品を取り上げてきた、クセックらしい節目の飾り方だ。

1999年発表の「愛の手紙――中国風殉教」は、そもそもは母親のモノローグ劇。今回そこに「建築家とアッシリア皇帝」の中の母親憎悪のエッセンスを挿入することで、アラバールと母親の関係に迫っていく。背景にあるのは、幼少期に勃発したスペイン内戦と、母の密告によって疾走した父親の不在、ふたつの悲劇――。

「『愛の手紙』は、母親側から息子に向けたメッセージ。でも、これだけではアラバールの作品がよくわからないだろうと。アラバールにとって母とは何なのか? 当時彼が自らの作品を称したパニック演劇とは何なのか? そのあたりを考え、提示したくて」

そう語るのは、構成・演出の神宮寺 啓だ。

「『建築家とアッシリア皇帝』は代表作だけに、アラバールのいろんな要素が詰まっています。しかも、『愛の手紙』が往時を追憶する母親の愛情の話なのに対し、全く別の視点で書かれている。でも両方がアラバールには違いない。そしてグロテスクさや凶暴性、けがれといったものと、逆の要素、相対的な価値観が入り交じってこそアラバールなんです」

左から神宮寺 啓、永野昌也

大きなテーブルと長椅子が階段状に配置された、比較的シンプルな舞台美術。場面によって修道院のようにも、教室のようにも、食卓のようにも見えてくるという。キャスティングは、看板俳優の榊原忠美と永野昌也が大人のアラバールと少年アラバールに、客演の常連・火田詮子と大西おにが老いた母と少女期の母に。世代の異なる役者ふたりずつで、アラバールと母親、それぞれの人間像や人生を浮かび上がらせる趣向。スペインの文学、美術への造詣豊かな神宮寺は、舞台をシュルレアリスムの手法で貫く。

「正面からでは何でも綺麗に見えてしまうことがあるならば、やぶ睨みによって見えてくる真実もある。黒い諧謔(かいぎゃく)というのかな、そういう視点じゃないと見えないものはありますから。そもそも僕らは、いたずらが好きじゃないですか(笑)。お客さんには『なんでこういう表現なのかな?』と思って観ていただけたらいいですね。なるべく奥の方に、奥の方にと、観客を引っ張っていきたいですよ」

クセック一流の美学は、稽古からもびしびし伝わってきた。そんな中、戦争を示すイメージが気に掛かる。スペインの内戦がアラバールの人生に大きく影響しているので、当然といえば当然だが、それだけなのだろうか。アラバールの原作にない台詞の加筆を知るにつけても、私たちの現在と関連付けてしまうが……。

「作品選びは『その時やりたいもの』でしかなく(政治的な)意図はありませんけど、アラバール自身は戦争への憎悪があります。『戦争って何でしょうか、人を殺すことですよね?』という問題はハッキリさせないといけない。ひとつの既成の価値観があるとしたら、それは本当に正しいのか、神を引きずり降ろしてきてでも見極めなければ。僕らは、きれいごとだけじゃわからない真実を探るため、デフォルメされた演技や劇構造を用いてるんです」

35年目のクセックも、一貫した作風に変わりはない。ただ、表現者も現代社会の一員であることに間違いはない。声高にメッセージを叫ばなくても、表現者が感じとっている“いま”は大なり小なり作品に反映されていくだろう。だからこそ演劇を含めたアートは、“炭鉱のカナリア”たりうるのではないかと思う。

クセックACT「アラバールからの『愛の手紙』」 ◎5月21日(木)~24日(日) 愛知県芸術劇場小ホール 前売3000円 当日3500円 中高生2000円 http://www.ksec-act.com/

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