ゲキ×シネ「蒼の乱」に天海祐希の真骨頂
日本屈指の動員を誇る劇団☆新感線は近年、“ゲキ×シネ”と銘打って舞台の映像化にも力を注いできた。10数台のHDカメラによって撮影されたゲキ×シネは、巧みなカット割りで記録映像の枠をはるかに越え、また違ったひとつの作品として成立している。同時に、演劇の醍醐味も伝えていることは言うまでもない。
そんなゲキ×シネの最新作「蒼の乱」が間もなく公開される。2014年、天海祐希と松山ケンイチをメインキャストに迎えて上演された同作は、平将門を題材とする歴史ファンタジーだ。将門は、いわゆる「将門の乱」を起こし、武士の時代を本格化させた関東の豪族。最近だと、“首塚”の都市伝説でおなじみ、と言った方がわかりやすいだろうか。舞台では、様々に語り継がれるこの武将をモデルにした将門小次郎と、妻になる渡来の女性・蒼真(そうま)を軸に、虚実綯い交ぜの壮絶な物語が展開していく。
圧巻は、なんといっても蒼真を演じる天海だろう。立ち姿の美しさ、ロックもバラードもいける歌唱力、秘めた過去を匂わせる影、殺陣の凛々しさ、タンカの迫力……。舞台人・天海の強みが、キャラクターを通じて存分に発揮されている。対する松山は、舞台2作目ということで初々しさを残しつつも、やはり存在感はさすがのひと言。自然を愛し、馬を愛し、蒼真を愛する小次郎の人間像を、それこそ自然体の演技で作り上げている。
一方、脇を支える顔ぶれがまた実力者揃いだ。“帳の夜叉丸”役の早乙女太一は相変わらず人間離れした身体能力で見事な殺陣を見せ、コミカルなやり取りでも太一流のクールさを。逆にコミカルお得意の梶原善は、ちょっと笑いを封印!? 良識派の貴族・弾正淑人を演じ、要所要所を締める。また、天海と同じく元宝塚の森奈みはるがイイ弾け具合。そして、大御所・平 幹二朗がミステリアスな権力者・常世王に扮し、劇を揺るぎないものにしている。
もちろん、西の海賊・伊予純友役の粟根まこと、蒼真の親友・桔梗役の高田聖子、小次郎の愛馬・黒馬鬼役(!)の橋本じゅんという劇団員たちが、本作を“新感線の舞台”たらしめていることは間違いない。彼らは、演出・いのうえひでのりの方法論をいちばん理解し、体現することで、客演の役者たちを無言のうちにリードしているのだ。
演劇の醍醐味のひとつは、役者を観ることにある。歌舞伎やシェイクスピアをはじめとした古典劇のように数多上演される作品において、新解釈なども見どころではあるけれど、観客は「誰が演じるのか」に関心の多くを払う。そういう意味でゲキ×シネは、汗の粒が見えるほど役者のエネルギーを間近に感じさせてくれる。そして、役者の生身の魅力をもっと味わいたいと思ったら、ぜひ次はナマの舞台に足を運んでほしい。
「蒼の乱」 ◎5月9日(土)~、ミッドランドスクエア シネマほかにて公開