映画「グッド・ライ」に見る、それぞれの嘘
「ビューティフル・マインド」のロン・ハワード製作のもと、「ぼくたちのムッシュ・ラザール」のフィリップ・ファラルドーが監督、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」の女優リース・ウィザースプーンが主演。アカデミー賞を賑わしてきたスタッフ&キャストによる「グッド・ライ」は、たくさんの実話をもとに織り成されている。実話とは1983年に始まったスーダンの内戦と、それによって親を亡くし、ロストボーイズと呼ばれることになった孤児たちの人生。製作サイドは1000人ものロストボーイズに取材を重ね、慎重かつ繊細に物語を構成。生々しくも人間味あふれるドラマに仕立て上げた。 映画は、スーダン内戦の悲惨な状況から始まる。のどかに遊んでいた少年マメールは、突然の襲撃で両親を失い、兄のテオや姉のアビタル、生き残った他の子どもたちと共にケニアへ避難する人たちの列に加わった。そこで彼らは、少年兵になることから逃れてきた兄弟、ジェレマイアとポールに出会う。 飢えや喉の渇き、何より、いつ撃ち殺されるかわからない死の恐怖に耐えながら行く道のりはあまりに過酷で、観ていて涙を抑えることができない。幼い子らが命を落としていくなか、マメールが敵兵に遭遇。テオが身代わりとなって連行され、マメールは兄に代わってチーフとなる。やがて彼らはカクマ難民キャンプにたどり着いた――。 それから13年後。映画の主眼は、あるい意味ここからだ。マメールたちは米・スーダン難民支援政策のおかげでアメリカ移住のチャンスを得る。ところが、喜びと夢で胸いっぱいの彼らにまず突きつけられた現実は、女性のアビタルだけが別々で暮らさなければならないことだった。そしてマメール、ジェレマイア、ポールの3人は共同生活を始め、職に就き、自らの力で生きていくことになるが……。 そんな彼らの受け入れ役が、ウィザースプーン演じる職業紹介所のキャリーだ。アメリカで見るものすべてにカルチャー・ショックを覚えるほど違う環境から来た3人は、就職しようにもひと騒動。ドライに仕事をこなしてきたキャリーにとっては頭の痛い案件だ。その様子が、最初は微笑ましくもあり、おかしくてたまらない。しかし、マメールたちの考え方や態度、言葉に触れるうち、先進国での生活に慣れきった私たちの方こそ、何かおかしいのではないかと考えさせられる。 その象徴が、嘘の有り様ではないだろうか。私たちは社交辞令や方便といった名目で日常的に嘘をつく。キャリーや彼女の周囲の人間も同様で、3人に口当たりのいい適当な言葉を放ち、適当な関係を築こうとする。しかし、マメールたちの言葉は愚直でも本心だ。そして彼らの嘘は、人生の大きな決断の瞬間に飛び出す。例えば、テオがマメールの身代わりとなった時のように……。社交辞令や方便は社会を円滑にする手段であることも事実だが、マメールたちの素朴さと優しさ、真の強さを目の当たりにすると、薄っぺらい処世術で生き抜けるような、甘い世界だけではないことを思い知らされるのだ。 なお、マメールを演じたアーノルド・オーチェン、ジェレマイア役のゲール・ドゥエイニー、ポール役のエマニュエル・ジャル、アビタル役のクース・ウィールは、実際に内戦の悲劇を経験している。戦火から逃げ出してきた者、難民キャンプで生まれた者、少年兵として地獄を見た者。彼らの体験が「グッド・ライ」に強いリアリティを与えていることは間違いない。最後に私たちは、アフリカにおける戦争の悲劇がまだ終わっていないことを、胸に刻んでおかなければならない。
◎4月17日(金)~、TOHOシネマズ名古屋ベイシティ/センチュリーシネマにて公開