「パリよ、永遠に」の劇的緊張感
映画としての魅力を味わいながら、観ている間ずっと舞台で上演された時の様子も想像してしまった。「パリよ、永遠に」は、2011年にフランスでヒットしたお芝居「Diplomatie(外交)」を映画化した作品。原作者シリル・ジェリーも脚本に加わって制作され、主演俳優も舞台版と同じだけに、台詞の応酬や主要キャストの演技力と存在感が、劇的な見応えにつながっている。 背景にあるのは、名作「パリは燃えているか」でも知られる史実=ヒトラーによるパリ壊滅作戦。ナチス・ドイツはフランスを占領下においていたものの、第二次世界大戦末期の1944年には自国のベルリンがすでに廃墟と化し、パリの美しさはヒトラーにとって嫉妬や憎悪の矛先となっていた。そこで彼は、エッフェル塔やオペラ座、ノートルダム大聖堂など、パリのシンボルすべてを爆破して、かの街を焼き尽くそうと考えたのだ。これは本当に狂気の沙汰。 映画「パリよ、永遠に」では、この恐ろしい計画前夜をシチュエーションにとり、実行の鍵を握るドイツ軍パリ防衛司令官コルティッツと、中立国スウェーデンの総領事ノルドリンクとの交渉の模様が描かれる。軍人の家系に生まれ育ち、破れかぶれの現状をどこか客観的にも見ているのに、ヒトラーの命令には忠実なコルティッツ。対してノルドリンクは、自身が生まれ育ったパリを守らんがため、司令官との面会を無理やり強行。かくして、男と男の運命と歴史を賭けた外交劇が幕を開ける――。 映画には作戦に関わる部下たちも登場し、実行現場の様子も映し出されることで、分刻み、秒刻みの緊迫感が浮かび上がるが、圧巻はコルティッツとノルドリンクの知的な言葉の応酬、そして心理攻防戦だ。冷徹な気配を漂わすコルティッツに、最初のうち、ノルドリンクの熱意は全く届かない。しかし心理攻防戦はシーソーゲームになるから面白い。やがて、ふたりの人間性は徐々に揺らぎを見せ始める……。 この外交の立役者ノルドリンクを演じるのはアンドレ・デュソリエ。当サイトでもご紹介したアラン・レネ監督「愛して飲んで歌って」では、ちょっと気の毒な夫を好演していたデュソリエだが、本作では巧みな駆け引きを仕掛ける切れ者に。一方のコルティッツ役には、ニエル・アレストリュプ。憎々しげな態度から、その後の変化までを演じ切る姿には、ベテラン俳優の表現力が光る。 もちろん両人の魅力を存分に引き出したのは、名匠フォルカー・シュレンドルフ。コルティッツとノルドリンクの息詰まる攻防を閉塞感に満ちた画面の中で展開させながら、終盤になってパリの美しい風景を見せつけ、観客の心にも開放感を与える手際は鮮やかだ。 なお、シュレンドルフ監督はドイツ人ながらフランスで映画のキャリアを積んできたこともあって、本作の根底には「仏独の和解」というテーマが流れている。おりしも2015年は、第二次世界大戦終結から70周年。「パリよ、永遠に」は、私たち日本人にも様々なメッセージを投げかけている。 ◎3月14日(土)~、名演小劇場にて公開