「チョコリエッタ」にザワザワモヤモヤ。それが青春というものか?
大島真寿美の小説「チョコリエッタ」が映画化された。監督は風間志織。先ごろ直木賞の最終候補にも残り、着実に支持を伸ばしてきた名古屋在住の作家・大島と、PFFに入選以降「火星のカノン」「せかいのおわり」などで国際的にも評価を受ける風間。いつまでも瑞々しい感性を持つ女性表現者ふたりが組んだことで、ある少女の多感な季節が浮かび上がってきた。 タイトルの「チョコリエッタ」は、主人公・知世子に彼女の母がつけた呼び名だ。その名前は一家の愛犬ジュリエッタに由来し、ジュリエッタの名前はフェリーニの映画で知られる女優ジュリエッタ・マシーナに由来する。そして5歳の時に交通事故で母を失い、16歳で愛犬のジュリエッタを失った知世子は、高校の進路調査書で「犬になりたい」と書いた――。 彼女の不安定で不機嫌な心模様は、喪失感だけによるものではない。この世界に対する、直感的な拒否反応とでも言うのだろうか。しかし、犬のチョコリエッタになることを夢想しても、現実にはかなわない。そう、どうにもならない現実、変えようのない現実、大人になっていくという現実。しかし知世子の苛立ちは、同じように何かを胸の内に抱える先輩・正宗と接近することで、少し変化していく。 ヒロインの知世子を演じるのは人気モデルであり、「劇場版 零~ゼロ~」や「渇き。」、TVドラマ「ごめんね青春!」で女優としても頭角を現す森川葵。正宗役には「共喰い」「そこのみにて光輝く」ほか、立て続けに話題作へと出演している菅田将暉。ふたりが複雑な想いを秘めた少女と少年を無理なく体現している。この役のため髪をベリーショートにしてのぞんだ森川は、知世子のキャラクターとも相性がよく自然体の演技。対して菅田は、ちょっと時代がかった喋り方の正宗を、確かな技量で、時にひょうひょうと、時に激しく演じきった。 正宗と知世子は映画研究部の先輩・後輩で、映画、特にフェリーニの「道」は、本作の中で重要な意味を持つ。また、正宗が知世子を主人公に映画を撮るため、バイクで飛び出した創作の旅にも不思議な空気が流れて面白い。映画を通じて交錯する、夢と現実。しかも現実は、現在の日本ともつながって……。 青春の真っただ中にいる知世子と正宗の心情が、意表を突かれる形で、いま現在多くの日本人が抱える心情と重なった時、ザワザワ&モヤモヤが違った色合いを帯びて迫ってくる。晴れない、けれども時間は進み、問題は押し流されていく。エンディング曲、森川が歌った忌野清志郎のカバー「jump!」にこめられたものを考えても、心はいっそうザワザワ、モヤモヤする。夜は落ちてきてしまったのだろうか。いずれにせよ、私たちは次の世界に向かって旅に出るべき時なのだ。 ◎3月21日(土・祝)~、名古屋シネマテークにて公開