top of page

肉食系女子と言わないで。恋愛映画「トレヴィの泉で二度目の恋を」


今年のバレンタインデーに、なんともキュートな恋愛映画が公開される。主役の恋人たちは人生の老境にある男女。ふたりは、時に年輪を感じさせるウィットに富んだ会話を交わし、時に若者のような青く甘酸っぱい行動に走るので、観る側はそのキャラクターに翻弄され、魅了されてしまう。 長年連れ添った妻を亡くし、娘の勧めでアパートに引っ越したフレッド。家族にも世間にもどこか頑なになってしまった彼の前に、隣人エルサが現れる。おしゃべりで陽気な彼女は、困ったことに嘘もお得意。それは日常の他愛もないことから、むかしピカソに絵を描いてもらったという話まで……!? しかもエルサは嘘を信じたフレッドに表面上とは違う温かなものを感じ取り、どんどん心を寄せていく。 エルサの行動力は素早くて積極的なので、ある意味、肉食系女子という印象。また、エルサとフレッドが近づいたり離れたりするテンポも速く、ちょっと戸惑うほどだ。しかし、思えば人間は、老いてからの方がせっかちになっていく傾向はある。高齢になった時の体内時計というのか時間感覚を、映画という時間芸術を通じて体感しているような気がしてきて、ふたりの時間というものに引き込まれていった。 もちろん、ふたりの世界に引き込まれたのは俳優の力によるところも大きい。まず、エルサを演じるのはシャーリー・マクレーン。「アパートの鍵貸します」「愛と追憶の日々」など数々の名作で主演を務め、アカデミー賞はじめ受賞歴も華々しい大女優だ。映画デビュー60周年、現在80歳で、あの可愛さはズルい。 一方のフレッドは、1965年のミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」トラップ大佐役で一躍脚光を浴び、近年「人生はビギナーズ」でアカデミー史上最高齢の助演男優賞を受賞したベテラン、クリストファー・プラマー。彼がエルサの嘘も本当も受け入れ、すべてを包み込んでいく姿は、年齢に関係なく惚れてしまうはず。 なお、もともとはアルゼンチン・スペイン映画で、名監督マイケル・ラドフォードによる英語版リメイクが「トレヴィの泉で二度目の恋を」。このラブストーリーは、恋愛だけでなく、老いることや人生、家族といった普遍の問題を優しく投げかけてくるのだ。 最後にひとつ。エルサは、フェデリコ・フェリーニ監督「甘い生活」が大好きで、同作の名場面=トレヴィの泉のシーンに憧れている。そこで、自分はヒロインを演じたアニタ・エクバーグになりきり、フレッドをマルチェロ・マストロヤンニに見立て、実際のローマで再現しようとする。このシーンは「トレヴィの泉~」のクライマックスだ。今年に入って早々、アニタ・エクバーグの訃報が届いて驚いたが、スクリーンの中の彼女は永遠。「甘い生活」を好きな人には「トレヴィの泉~」を観てほしいし、「トレヴィの泉~」を観れば「甘い生活」が観たくなるだろう。 ◎2月14日(土)~、名演小劇場にて公開

タグ:

bottom of page