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avecビーズ「トワイライト アット タイム」を妄想して戦慄

劇作家・北村想の書き下ろした「トワイライト アット タイムーtwilight at timeー ~この黄昏よ~」が、ひまわりホールにて上演される。演出はキャストのひとりであり、プロジェクト・ナビ時代から北村作品を熟知している小林正和が務め、制作も順調の様子。取材日はちょうど北村自身も稽古場に来ていたので、作者の話も交えながら新作の内容を探ってみた。 「トワイライト~」は、北村がフランスの映画監督ジュリアン・デュヴィヴィエの「旅路の果て」に触発され、その中で描かれる「俳優の養老院」というシチュエーションを演劇に持ち込んだ作品だ。なお、同作に限らず映画にまつわるエピソードは他にも随所にちりばめられ、映画好きにはそれだけでタマラナイ趣向となっている。 しかし、その日の稽古を拝見したところ「あれ?」と思うことが。チェーホフの代表作「かもめ」について語られる場面がひどく印象に残ったからだ。 小林に配役を尋ねると「ヒート(猛)さんがプロデューサー。こつじ(まさのり)さんは待機役者と言うんですかね、その人物を演じる役者に何かあった場合、代わって演じる役者さんのことです。そして火田(詮子)さんとスズキナコが元・少女歌劇団。入居者はみんな70歳以上という設定です」とのこと。他にもプロデューサーの元妻や愛人も登場するようだが、俳優の養老ホームなので演劇をやっていた者もいるというワケだ。 また、もうひとつ気になる小道具を目撃。観てのお楽しみなので詳しい記述は避けるが、それも「かもめ」をめぐって活用されるという。 「『かもめ』はね……、スピンオフとして入ってるだけなんですけどね。ただ、これは矛盾してるんですよ。だって、チェーホフは基本的に、観客の観ている芝居の外で事件が起きるんですから」と北村。 北村は「かもめ」のスピンオフ、つまり外伝を挿入しているというのだが、この「外」というイメージがどうも引っかかる。そこに、今回の新作を味わうミソが隠されているように感じるのだ。舞台では、下は30代からいる役者陣が全員、実年齢を超えた70歳以上を演じる。さらに、俳優の集まる養老ホームらしく、劇中劇も始まって……。 「テーマというほど重くはないけど、構造を言うなら、現実とは何か?虚構とは何か?ということをやっている芝居ですよね。例えば、養老ホームは虚構だけど、観客は(目の前で行われる行為を)現実としても見ている。それが演劇というものですから」と北村は言った。 では、私たちは一体なにを観ていることになるのか。取り壊しのために養老ホームを出ていく人々を待ち受ける外界は、現実のことなのだろうか。それならば、外はどんな様相を呈しているのだろうかーー。想像すると、なんだか身震いしてしまう。

そして、北村は最後にこう語った。 「自分も還暦を過ぎて、『60歳はまだ若い』と言われることもあるけど、やっぱりキツイよね(苦笑)。ただ、『歳なんだからしょうがないよ』と言えるところがいいとも思うんです。それに、終わりだからできることもある。そういう意味で、この劇は(人生の)始発駅にもしてあるんです」 「人生の夕暮れ時」を通して観る、夜明けの風景。それが人類の夜明け、人類の未来にさえ映るのでは……と妄想させるところが、北村作品の凄みである。 *写真いちばん手前が北村想、右端が小林正和 ◎1月15日(木)~18日(日) 損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール 前売2800円 当日3000円 中高生前売1500円

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