「ちゃんと生きなきゃ」と奮い立たされる、映画「おみおくりの作法」
「フル・モンティ」のプロデューサーとして知られるウベルト・パゾリーニの監督・脚本・製作でイギリスを舞台に撮影された「おみおくりの作法」は、笑っていいのか泣いていいのかわからず、もう両方いっぺんにしてしまえ!という境地にいたってしまった。そして観終わった後は、不思議と奮い立つような感情に駆られ、「ちゃんと生きる」ということに背中を押された想い。 主人公ジョン・メイはロンドン市の民生係として勤務。彼の仕事は、誰にも看取られずひとりで亡くなった人を弔うことだ。故人の写真や遺品を手掛かりに親類縁者を探し、彼らに連絡しては葬儀への参列を呼び掛けるーーこのあたりまでは事務的とも言えるが、なかなか遺族が現れるケースはなく、結局、ジョン・メイが葬儀を取り仕切ることに。その作業が微に入り細を穿って気持ちいい。故人の宗教を調べて配慮することに始まり、生前を偲んだ弔辞の作成(!)、故人にふさわしい葬儀BGMの選曲(!?)まで、できる限りの心尽くしで死者を見送るのだ。 しかし、いずこの国もご同様というのか、行政の現場でさえ効率最優先の現代。ジョン・メイの仕事に対する姿勢は評価されていない。それどころか、行政区分の見直しに伴い、彼は解雇されてしまう。そこでジョン・メイは、最後の案件であり、奇しくも向かいの部屋の住人であった故人ビリー・ストークのため、もはや職務の範疇を越えてイングランド中を飛び回る……。 パゾリーニ監督は、実際に存在した民生係の新聞記事から本作を着想。全体に抑えたトーンで演出された映像は、どこか奇妙な空気も漂わせながらクールでかっこよく、へんに熱くなったり湿っぽくなったりしない。また、ジョン・メイの律義な性格を表すカットが、映像美につながっているのも面白い。それでいて冷たい印象を受けるわけでもなく、観る者は知らず知らずのうちジョン・メイに深い共感を覚えてしまう。 社会で働くことは、食いぶちを稼ぐためであるのは間違いないし、少ない労力でたくさんの利益を得られるに越したこともないだろう。ただ、誇りをもって仕事ができているかということも大切な問題だ。誰にでもない、自分自身に恥じることなく、仕事を全うできたかどうか。主人公ジョン・メイは、民生係の職務を全うすると同時に、人間に生まれたからこそ与えられる仕事=人の道を全うしようとする。 第70回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で、監督賞や国際芸術映画評論連盟賞ほかに輝き、その後も世界の映画祭を席巻している「おみおくりの作法」。パゾリーニ監督の手腕もさることながら、それに応える主演のエディ・マーサンが、おかしみも切なさも哀しみも、すべて体現していて素晴らしい。 ◎1月31日(土)~、名演小劇場にて公開