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過酷な世界にも温かな手触り 映画「ショート・ターム」公開


「ショート・ターム」とは、家庭環境などのせいで心に傷や闇を抱えた少年少女のための短期保護施設。このアメリカ映画「ショート・ターム」では、そんな施設を舞台としながら、子どもはもちろん大人の方も、ホンの少し変化を果たすところに心を揺さぶられる。 主人公のグレイスは、10代の子どもたちをあずかるショート・ターム12のケアマネージャー。子どもたちを監視しつつ、時には家族のように寄り添うケアマネージャーの仕事は、セラピストとは異なり、現場の最前線とも言うべき立場だ。グレイスは聡明でタフな仕事ぶりから、子どもからも同僚からも信頼されているけれど、実際には20代の等身大の女性であり、苦悩や葛藤も見え隠れ。そして彼女自身、何らかの闇を抱えているようで……。 虐待やネグレクト、いじめといった問題を背景とする物語は、もちろん日本の現在とも結びつき、胸をえぐられる想いの連続。ただ、グレイスや彼女の恋人メイソンら施設のスタッフたちは、どんな状況にあってもユーモアを忘れない。いや、むしろ努めてそうすることで、悲惨な現実を乗り越えようとしている。彼らにも複雑な過去があり、子どもたちを鏡としながら、大人たちも今を懸命に生き直そうとしているのだ。そこにかすかな光がある。 冒頭、新人スタッフのネイトが着任する。彼は本作の監督デスティン・クレットンの分身的存在だ。脚本も手掛けたクレットンは、大学卒業後の2年間、ショート・タームと同じようなグループホームで働いたことがあり、その体験が本作につながっているのだ。だからだろうか、安っぽい情緒には流されず、かと言って冷徹な眼差しで現実を映しているわけでもない。彼が身をもって学んだことが、率直に映像化されているのだろうなと思わされた。 そもそも「ショート・ターム」は、2009年のサンダンス映画祭で審査員賞を受賞した同名短編映画をもとにしており、その評判を追い風に長編製作が実現した。長編となって脚本はかなり改稿されたそうだが、若き新人監督クレットンが地道にこつこつと育ててきた感じもまた、この映画に温もりを与えている。結果、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)映画祭2013でワールドプレミア以降、世界中で30もの映画賞に輝く快挙をとげている。 特にグレイス役のブリー・ラーソンは、ロカルノ国際映画祭最優秀主演女優賞をはじめ数々の主演賞を受賞。クレットン監督同様、ハリウッドでの今後の活躍に期待が高まっている。個人的には、メイソンを演じたジョン・ギャラガー・Jr.のヒゲ男子ぶりと包容力にクギづけ。 また、子どもたちを演じた俳優も魅力的だ。グレイスに大きな影響を及ぼす少女ジェイデン役のケイトリン・ディーヴァ―が「タコの足」の創作童話で必死のサインを送る場面は、その童話の妙ともあいまって圧巻。男の子では、監督がやっとの思いで探し出した短編版唯一のキャスト、キース・スタンフィールドが演技でもラップでもいい味を出している。彼は「ショート・ターム」がスクリーンデビュー作というから末恐ろしい!? ◎11月29日(土)~、名演小劇場にて公開

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