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てんぷくプロ「ふなぞこ」 稽古場レポート


「皆様と共に走る」のキャッチフレーズでもおなじみ名古屋の名物劇団、てんぷくプロが2年ぶりに本公演を行う。しかも、てんぷくの代名詞とも言える「菊永洋一郎」10年ぶりの新作。菊永洋一郎とは、てんぷくが共同執筆する際のペンネームだ。そこで、気になる新作「ふなぞこ」について取材するため、彼らの稽古場「アトリエ昭和薬局前」を訪ねた。 「2年前に『へ・ち・ま』を再演した後、『やっぱり、共同執筆をもう一回やってみようよ』という話が出て、だったら、以前から温めていた『洞爺丸の悲劇』を芝居にしようってことになったんです」とは、演出を担当するいちじくじゅん。 てんぷくは役者集団なので外部への客演も多い。また、前アトリエを閉めた2003年以降は稽古場と劇場どちらも点々とする一種の放浪時代が続き、全員が膝を突き合わせるように取り組む共同執筆には環境・状況が整わなかった。それが現在の稽古場を構えたこともあって落ち着きを取り戻し、久々に菊永洋一郎の登板とあいなったワケだ。

前列右端が、演出のいちじくじゅん てんぷく初演出、どころか、人生初演出だと言ういちじく。「奇抜なことはしませんよ、いたってオーソドックスに…」と照れ笑いを浮かべたが、稽古を拝見するかぎり身体を使った表現が目立つ。コレは、いちじくがスタントマンだった経験によるものではないのか!? 「僕が演出をやると、役者に『身体を酷使させられる』と言われそうだけど、そうじゃないんですよ(笑)」

派手にお尻を蹴られるシーンも しかし、確かにこの日はダンスの稽古が中心だったので、秋が深まった時期にも関わらず、役者はけっこう汗だく。その後、演技の稽古でもアクション物さながらの動きが飛び出し、舞台は賑やかに展開していく。というのも、「ふなぞこ」には映画制作の様子が劇中劇として挿入されているからだ。時は1988年、すなわち昭和63年。撮影現場では、昭和29年の青函連絡船のシーンに差し掛かっていた――。 「この芝居は、昭和63年の秋口の設定なんですよ。つまり、翌年に入ってすぐ平成という時代を迎えることになるんだけど、それを当時の人たちはわからないという……。でも、あの頃って誰の中にも漠然とした不安とか、不穏な空気や予感がありましたよね。昭和63年は、旧国鉄がJRに替わり、青函トンネルが開通して、青函連絡船が廃止になった年でもあるんです」

懐かしの昭和歌謡が生演奏で次々と……!? 時代の転換期にありながら、それを知らない登場人物たち。かつて国民的歌手だったノリコを主人公に、芸能関係者やミュージシャン崩れの芸人たちが繰り広げる群像劇は、歌あり生演奏あり踊りありで、一見明るく楽しい。しかし、昭和29年に実際起きた洞爺丸海難事故が絡んでいくことで、また違った様相が浮かび上がってくる。 「昭和63年と昭和29年が、徐々にまざっていくような芝居になりますよ。そうすることで、昭和という時代が持っていた暴力性とか野蛮さが出せればいいなと思ってるんです」 映画の中で描かれる昭和29年の世界には、戦争の傷跡も見え隠れ。激動の昭和を見渡すような悲喜劇を通じて、日本人の本質も浮き彫りになりそうだ。

◎12月4日(木)~7日(日) 七ツ寺共同スタジオ 前売-2800円 当日-3000円 高校生以下-1500円 ※船員・船舶関係者割引/鹿割引(名前に「鹿」の文字が入っている人を対象)あり。

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