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最後はやっぱり泣いちゃいますよ……映画「至高のエトワール」


フランス語で「星」を意味する「エトワール」という言葉を聞くと、ダンスのファンならばパリ・オペラ座バレエ団のことを思い起こす人も多いだろう。パリ・オペラ座では、最高位にあるダンサーの称号がエトワールだからだ。映画「至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~」は、世界最高峰にあるパリ・オペラ座でまさに星の如く輝いたエトワール、アニエス・ルテステュのドキュメンタリー映画。 2013年10月10日、当たり役の「椿姫」でアデュー公演(さよなら公演)を行ったアニエス。この映画は、その日までの2年間を追いかけている。無論、彼女の名舞台や稽古風景などダンス映像がたっぷり。パリ・オペラ座関連のドキュメンタリーを手掛けてきたマレーネ・イヨネスコ監督が手腕を存分に発揮している。何より、アニエス自身がパリ・オペラ座での日々を語る様子や表情が、とても清々しくて印象的。喜びはもちろん苦しかったことさえも、すべては過ぎたことであり、大切な思い出なのだろう。 そもそも彼女は、表現者としての人生まで終えるつもりはなく、ダンサーとして、また衣装家としても活動していこうと、むしろ胸を躍らせていた。声高には言わずとも、その身が尽きるまで彼女の静かな情熱は燃え続け、表現の営みもまた続いていく。そう思うと、こちらの胸にも熱いものがこみあげた。 そして、さらに胸を熱くさせられるのが、彼女を取り巻く人々の証言。偉大な先輩エトワールのローラン・イレール、アデュー公演で「椿姫」のアルマン役を務めたステファン・ビュリョンら、パリ・オペラ座の面々もさることながら、世紀の振付家たちがアニエスに賛辞を贈り、深い敬愛の念を表しているのだ。「椿姫」の振付家ジョン・ノイマイヤーに、ウィリアム・フォーサイス、イリ・キリアンというコンテンポラリーダンス界の巨星たちの言葉は、それだけでもダンスファン必聴。アニエスが世界の舞踊シーンにおいて、どれほど貴重な才能だったかも浮かび上がってくる。 それでも、いちばん胸打たれてしまったのは、ジョゼ・マルティネスの言葉の数々だ。これはズルいと言ってもいい。自他ともに認めるアニエスの最高のパートナーだったジョゼは、彼女を知り尽くした舞踊家として冷静な分析も見せながら、深い愛情をもって彼女を語る。しかも、ひと足先にパリ・オペラ座を退団し、現在はスペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督となった彼が、ひとりのダンサーとして正直な想いを吐露するシーンには涙がこらえきれなかった。 おりしも11月30日(日)には、ジョゼ率いるスペイン国立ダンスカンパニーが来日。名古屋で公演を行う。この機に映画も舞台も観てもらい、ダンスの楽しさと奥深さに触れてもらえれば嬉しい。さらに願わくば、映画やダンス以外が好きな人、例えば演劇や音楽、美術のファンにこそ「至高のエトワール」を観てほしい。芸術とは何か、表現するとはどういうことなのかを、きっと感じとってもらえるはずだから……。 ◎11月29日(土)~、名演小劇場にて公開

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