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寺田農が信玄の父「信虎」を怪演


平成「ガメラ」シリーズや「デスノート」の金子修介監督、歴史美術研究家・宮下玄覇の共同監督・脚本による映画「信虎」が公開される。主人公の戦国武将・武田信虎を演じるのはベテラン俳優・寺田農。信虎は武田信玄の父に当たるが、その信玄から甲斐(山梨県)を追放され、駿河(静岡県)の今川義元のもとで過ごした後、京で将軍・足利義輝に仕えた。この映画は、80歳になった信虎が信玄の危篤を知り、武田家での復権をはかろうと故郷に向かうところから始まる。主演の寺田に話を聞いた。

「2019年に開府500年を記念して甲府駅北口に信虎の銅像が建てられたんですよ。信玄の像は50年以上も前からあるそうなんですけどね。信虎は悪く言われることも多いですが、武田家の研究会なども盛んなことから『本当の人間像は違うのではないか』と、信虎の功績を見直す機運にあったのでしょう」

信玄ではなく信虎にスポットライトが当たった経緯を、寺田はこう推察した。確かに信虎追放劇には謎めいたところがあり、信玄は駿河で暮らす信虎を経済的に支援していた一方、信虎は京の情報を信玄に提供していたという話も。つまり、必ずしも親子関係が断絶していたとは言い切れない実態がうかがえるのだ。

「見ようによっては諜報員ですよね。追放されるまでは戦術に長け、政治家としても手腕を発揮した。信虎は世の中を見る目に優れた人物だったと思いますよ。『歴史にif(もしも)はない』と言いますが、信玄・信虎・上杉謙信の三者がうまくやっていたら川中島のような無益な戦いもなかったでしょうし、以後の日本が変わっていたかもしれませんね」

(C)2021ミヤオビピクチャーズ

ただ、信虎を偉人として描いたわけでもないところが本作の面白さ。そもそも物語は信虎の早とちりに端を発する。さらに信濃高遠城までたどりついても六男の武田逍遥軒には甲斐入国を拒まれ、新たな当主となった孫の武田勝頼や家臣たちにも邪険に扱われる始末。しかし一貫して悲愴な感じはなく、むしろ信虎の人間的な業が作品に滑稽味を与えている。

「晩年になって『夢よ、もう一度』じゃないけど、老人の妄執が表れていますよね(笑)。でも背景には、世が織田優勢の最中、せめて家名だけでも残したいという想いがある」


(C)2021ミヤオビピクチャーズ


信虎が願いを叶えられる妖力のようなものを身に付けたことから不思議な幻想性も感じる半面、もちろん戦国の時代劇だけに多くの命が失われていくシーンもあり、音響や映像の効果が生々しくておののく。死生観、価値観が今とは大きく異なる時代の中、信虎の末娘・お直の振る舞いだけはどこか現代的に映り、親子の掛け合いも楽しくて癒される。なお、お直役には谷村美月。さらに矢野聖人や荒井敦史、榎木孝明、永島敏行、渡辺裕之ほか幅広い世代の実力者が出演している。また、音楽の池辺晉一郎をはじめとしたスタッフワークも充実。衣裳や美術、道具類などは可能な限り忠実性にこだわり、当時の再現に努めた。

「刀や調度品、ロケ地には実際のお寺などたくさんお借りしているので、難しい歴史の知識がなくても、本物の持つ魅力を感じていただけると思います。僕が劇中で乗る馬も『木曽馬』といって、当時の日本で本当に働いていた足腰の低い種類なんですよ。セリフには古語が多いですけど、かつらを付けた現代劇になりつつある昨今の時代劇とは違った感覚を体験できると思うので、若い人たちにぜひ見てほしいですね」
「信虎」
◎2021年11月12日(金)~、名演小劇場ほかにて公開
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