前田敦子の抱える孤独を輝かせた、黒沢清監督の最新作

May 29, 2019

 

世界的に人気の黒沢清が監督・脚本を手掛けた最新作「旅のおわり世界のはじまり」は、ちょっとドキュメンタリーのような感触を持つ映画だ。「散歩する侵略者」など過去にも黒沢作品に参加してきた前田敦子が主演を務め、かつてのシルクロードの要所ウズベキスタンで1カ月の滞在撮影に挑戦。監督の経験と前田の個性が溶け合い、リアリティとファンタジーが面白く両立している。黒沢に話を聞いた。
 

「客観的には大きな出来事の起こらないストーリーですけど、主人公にとっては違いますよね。僕自身も映画祭などで海外に行く機会が増え、細かいトラブルに遭うことは多い。そういった経験をベースに脚本を書きました。僕は臆病な人間で、危険なところには行きたくないタイプですが、よせばいいのに地元のバスに乗ったりして『しまった!』という展開になる(苦笑)。見知らぬ国に立った時、ガードを固くする半面、大胆にもなってしまうんです。ただ、怖い目にも遭うけれど、それ以上に出会いもある。それが旅だし、海外にいる醍醐味だと思います。恐る恐るだけど一歩を踏み出し、その国と親しくなっていく、そういう自分が主人公に投影されていますね」
 

(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO


 

前田が演じる主人公の葉子は、テレビバラエティのリポーターとしてウズベキスタン共和国にやってきた。ロケは予定どおりに行かないことだらけで、番組クルーは困ったりイライラしたり。若いディレクターは取材先で無遠慮に要求ばかり言い放ち、ADも人柄こそ良いけれど上の言いなり。通訳兼コーディネーターは現地人との間に立って戸惑いが隠せない。ベテランのカメラマンだけは冷静に事態と向き合うも、ことを荒立てたりはしない。そんな男性陣に囲まれて紅一点、葉子は感情を押し殺しながら黙々と仕事をこなす……。
 

「葉子は終始不機嫌で、スタッフとも街の人とも打ち解けることのない人物。こういう役を演じる前田敦子は、誰にも真似できない存在感があります。彼女は、たった一人、孤立している時がいちばん輝く。強さと弱さが同居していて、一瞬で揺れ動きや矛盾を表現できる優れた女優だと思いますね」
 

なお、カメラマンの岩尾役に加瀬亮、ディレクターの吉岡役に染谷将太、ADの佐々木役に柄本時生。主役であってもおかしくない実力者、個性派たちが脇を支えている。
 

「3人は長期撮影を気持ちよく引き受けてくれたんですけど、オフには大変な目に遭った人も。加瀬さんは携帯電話をタクシーに忘れ、柄本さんはエレベーターに閉じ込められた。でも、そういうことを後で笑い話にできる人たちに参加してもらった感じですね」

(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO


 

日本・ウズベキスタン国交樹立25周年、ナボイ劇場完成70周年記念として国際共同製作された「旅のおわり世界のはじまり」には、シルクロードの交易文化を背景とする美しい街並みから、広大な草原や湖が広がる大自然まで収められている。その中でも、日本人が建設に関わったナボイ劇場は重要な役割を担う。
 

「ウズベキスタン側からの唯一の要望は、ナボイ劇場を映画に出してほしいということでした。そこで、主人公の葉子がテレビレポーターという設定は決めていたので、彼女が歌手志望で、ナボイ劇場で歌う幻想シーンを入れたらうまく成立するのではないかと考えて。だから余計に、葉子役は前田敦子にしようと思ったのかもしれません。また何かを歌うのであれば、僕自身の好きな『愛の讃歌』にしようと。その際、越路吹雪さんの歌ったマイルドな和訳ではなく、もっとエディット・ピアフの原曲に近い歌詞にしたかった。それを前田敦子だったら歌えるだろうとも思ったんです。物凄いプレッシャーはあったようで、日本で相当練習していましたね。結果、素晴らしい歌のシーンになりました。特にラストは見ものなので、これからご覧になる方は楽しみにしていてください」
 

(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO


 

国際共同製作だからこそ盛り込まれたアイデアがあれば、海外ロケだからこその苦労も。そのあたりがドキュメンタリータッチにつながっている。
 

「バザールは撮影禁止と言われていたんですけど、違法な人や事柄は撮影しないからと説得して撮影にこぎつけました。ところが実際の現場では、目の前の屋台が合法か違法かなんて誰も区別がつかない。それで結局、何でも撮影OKになってしまいました(苦笑)。現地の人にとっても初めての撮影だというバザールの地下シーンや、難色を示す関係者を口説いて撮ったホテルの屋上などはとても貴重な画なので、堪能していただきたいですね」
 

旧ソ連時代の空気も残すウズベキスタンだが、現在は観光に力を注ぎ、治安はとても良い。また親日家や日本語を学ぶ人が多く、現地スタッフには大いに助けられたという。
 

「キャスト、スタッフともにメイン以外はウズベキスタンの人たちでしたが、日本のやり方で撮影を進める中、通訳の方々には非常に助けられました。最初は2人だったんですけど、途中それでは足りないということになって新たに通訳を募ったら、15人ほどがすぐに集まってくれて。しかも、みんな日本に親しい感情を持っていて、通訳以外の仕事も積極的に手伝ってくれたんですよね。おかげで、現場全体に良い影響を与えてくれました」
 

この映画は、異国の風景や文化を生き生きと映している。同時に、現在の日本や日本人の姿も、ある種シニカルに突きつけてくる。観客は主人公の旅を共に体験することで、世界と私たちの在り様を新たに発見するだろう。

「旅のおわり世界のはじまり」
監督・脚本:黒沢 清
出演:前田敦子/加瀬 亮/染谷将太/柄本時生/アディズ・ラジャボフ
◎6月14日(金)~、ミッドランドスクエアシネマほか全国にて公開
配給:東京テアトル

https://tabisekamovie.com/

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