気鋭たちの薫陶を受けた広瀬奈々子が「夜明け」で監督デビュー

January 10, 2019

 日本映画に、次代を担う新たな才能がまたひとり出現した。1987年生まれの広瀬奈々子は、是枝裕和と西川美和が立ち上げた制作者集団「分福」に所属。国際的に活躍する両監督のもとで監督助手などを務め、薫陶を受けてきた。そんな広瀬がオリジナル脚本「夜明け」で監督デューを果たす。1月18日(金)の公開を前にキャンペーンで名古屋を訪れた彼女に話を聞いてみると、初々しさの一方で、落ち着きや芯の強さも感じた。
 

「7年前に分福に入って、私が新人監督第1号となりました。これまでCMディレクターを経験していたので、映画監督デビューも促されていたんですが、企画になかなかGOサインを出していただけなくて、『20代のうちに監督になれ』と言われていたのに30代になってしまった。それで20代を振り返っていたら、いちばん思い出されたのが大学を卒業する頃のことだったんです。就職も決まっていなかったうえ、東日本大震災が発生して、卒業式も中止になりました。その時の、どこにぶつけていいのかわからない憤りや無力感を映画のベースにしようと思い立ち、主人公にも投影していったんです」
 

割り切れない複雑な感情から出発した「夜明け」は、偶然の積み重ねの中、どうしようもない感情が交差する。物語は、地方で木工所を営む哲郎が河辺で倒れていた青年を助けたことから展開。青年が亡き息子と同じ「シンイチ」と名乗ったため哲郎は胸をざわつかせ、互いに素性もよくわからぬまま同居生活を始めることに……。シンイチ、哲郎それぞれの事情が明らかになっても、時代やコミュニケーションの困難をいっそう痛感してしまう。
 

「震災の直後、絆だとか家族愛がうたわれる風潮があって、それに私は懐疑的でした。だから、人間関係の美しい部分だけじゃなく、闇やエゴ、残酷さも表現したくて。この映画ではシンイチの周りの人間が優しく、必要以上にプレッシャーとなってしまう。それは今っぽい感覚じゃないかと」

シンイチを演じるのは柳楽優弥だ。このところ濃い役柄が目立つ柳楽だが、本作では言葉少なで本心の見えない青年を熱演。ベテラン・小林薫の演じる哲郎と真っ向から対峙した。是枝監督の「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を史上最年少受賞した柳楽が、是枝の愛弟子の初監督作でまた瑞々しく繊細な演技を見せたことは因縁めいている。
 

「是枝さんが見出した人を“もらう”ような形になることには、抵抗感やプレッシャー、葛藤がありました。ただ、ありがたい提案でもあったので、関係性を生かすことも踏まえ、出演オファーをしました。結果、柳楽さんは私に、私は柳楽さんに寄せて(笑)、撮影を重ねていったと思います。柳楽さんには事前に『考え過ぎず、作り過ぎず臨みたい』と言われていて、現場でどうやってイメージする状態に俳優を導くかという演出の勉強にもなりました。また、薫さんとも現場では率直に向き合えて良かったです。最初は緊張しましたけど、おちゃめな方でもあり、同じ土俵で対等に話をさせていただけました」
 

(C)2019「夜明け」製作委員会


 

柳楽と小林、双方との関係がうまく築けたおかげで、監督の想像を超えるシーンも生まれた様子。そうして「何かをやらかしたらしいシンイチが普通の青年に見えてきて、普通のおっちゃんだと思われた哲郎が狂気を帯びていく」という劇的仕掛けも実った。
 

「自分自身の環境は非常に恵まれている」と認め、「優柔不断で頼りないタイプの監督」と謙遜した広瀬だが、先輩監督たちの助言に「カッとなって『なにクソ!』と思ったこともあります」と苦笑い。従順な優等生ではないようだ。「是枝さん、西川さんの愛弟子とうたわれることに感謝はしていますが、お二人とは違うものを作って、自分らしさを出していかなければダメだとも理解しています」と語った広瀬監督。彼女の最初の一歩を、まずは多くの観客に目撃してほしい。

「夜明け」
◎1月18日(金)~、ミッドランドスクエア シネマほかにて公開

https://yoake-movie.com/

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