top of page

チェーホフVS佃典彦、喜劇対決?


名古屋演劇界の雄、劇団B級遊撃隊が2本立て公演を敢行。ロシアの大劇作家アントン・チェーホフの「プロポーズ」と、同劇団の主宰で劇作家の佃典彦が新たに書き下ろした「プロポーズ」を同時に発表する。きっかけは、佃の名女房役である演出家・神谷尚吾がチェーホフの「プロポーズ」で若手演出家コンクール2017(文化庁/一般社団法人日本演出家協会主催)に挑戦、優秀賞に選ばれたこと。この芝居を名古屋でも披露するにあたり、新作との組み合わせが決まった。

「チェーホフの他の短編と組み合わせるより、“チェーホフVS佃”という趣向にした方が、劇団の企画としては面白いと思ったんです。舞台にはテーブルとイスだけがあって、最初に近所の男がプロポーズのために登場するところまでは同じ設定。プロポーズがなかなか上手くいかない点も一緒ですね。あとは、ほとんど意識せず書きました」

チェーホフ作品を観たことのない人に、短編の「プロポーズ」は入門編としてオススメ。そして新作「プロポーズ」は、B級遊撃隊をよく知る人にも知らない人にも驚きが多い。

「まともなプロポーズにするのもつまらない気がして、ものすごく歳のいった人とか、ものすごく幼い人を絡めたら異様な感じが出るんじゃないかと。それで中年男性が小学生の女の子にプロポーズする展開にしたんです。ちょっと怖いけれど、現代ではあり得ない話じゃないですからね」

そこから始まって、オタク文化やアイドルの低年齢化、学級崩壊の問題にまで波及。現代社会をシニカルに描く佃一流の視点を感じるが、やがて劇は宇宙レベルに広がって唖然!?

「実は、竹内銃一郎さんの『SF・大畳談』に影響を受けた部分があります。この戯曲では、いろんな人がやってきては、みんな居座って帰らないんですよ(笑)」

ちなみに、プロポーズされる小学生ココナは超絶美少女のため周囲の人間を翻弄しているらしいのだが、舞台には登場しない。これは不条理劇の金字塔「ゴドーを待ちながら」のゴドーに通じる存在なのかと思いきや、佃からはこんな答えが返ってきた。

「ココナは夏休み中でキャンプに出掛けていて、みんな待っているわけじゃないので、ゴドーではないです。それより『十二人の怒れる男』に出てくる少年の方が近いかな。あの作品で少年の有罪・無罪を追求するように、ココナは“普通なのか普通じゃないのか”が議論される。先日、メジャーリーガーの大谷翔平選手が『この惑星のものではない!』というような称賛をされていましたよね?ココナもそれぐらいまつりあげられていくんだけど、ココナの母親からすれば全く普通の子どもなんですよ。そうした相反する意見がぶつかる中で『普通とは一体どういうことか』というひとつのテーマが浮かび上がります」

佃典彦の「プロポーズ」稽古風景 左から二瓶翔輔、梅宮さおり、三井田明日香、神谷尚吾、

まどか園太夫、佃典彦

佃らしさも意表を突く新しさもあって期待は膨らむが、それを読み解きつつ、キャストがひとり入れ替わったチェーホフの「プロポーズ」も再演出している神谷は重労働だ。

神谷「佃さんの『プロポーズ』は現実離れしているし、要素が盛りだくさんなので、追い過ぎないようにしないと(苦笑)。やり過ぎず抑え過ぎず、嘘をどれだけ本当のことに見せられるかが大事になっていきます。それと、セットが同じだったり始まりが同じ設定にはなっているけど、他にもふたつの『プロポーズ』に共通点を探したいなと。それを際立たせることで、より面白い2本立てになると思っています」

チェーホフの「プロポーズ」稽古風景 左から吉村公佑、いちじくジュン

チェーホフの「プロポーズ」稽古風景 右端は大脇ぱんだ

神谷はコンクール出場のために初めて本格的にチェーホフを手掛け、現代戯曲との差異に苦戦を強いられたという。「プロポーズ」は、結婚話そっちのけで地主同士が係争地をめぐって大喧嘩になるコミカルな物語だが、神谷は複雑な表情で戯曲と格闘していた。

神谷「とにかく、まず台詞に苦労しています。翻訳語で、しかも長い台詞が多い。慣れていない役者は待ちきれないんですよ。また、役の人物ではなく、役者自身が喋っていると見せるためにはどうしたらいいのかも難しい。演技用の台詞にせず、リアルに出てきた言葉だと思わせなければ……。チェーホフはサブテキスト(言外の意味)が多いと言われますけど、そこを演出家としてまだ一向に楽しめていないんです。もう辛くて(苦笑)。ただ、舞台上で行われているのは小さなことなのに、後ろにあるものがどんどん大きく見えてくるから面白いなと。それがきっと、普遍と呼ばれるものなんですよね」

コンクールで受けた批評も糧に、神谷の選んだ戦術は正攻法。台詞はそのままに、劇的飛躍を模索する道だ。

神谷「台詞を変えることなく、どうやって壊すか、と言うか、“飛ばせるか”を考え続けています。同時に、役者同士のアンサンブルも重要になってくる。2作の『プロポーズ』それぞれに、一色にならないような空気を作れたらいいですね」

なお、チェーホフの「プロポーズ」には、いちじくジュン(てんぷくプロ)が客演。佃の「プロポーズ」にも劇団員に加え、フリーの二瓶翔輔が出演する。

劇団B級遊撃隊 「プロポーズ」 ◎5月10日(木)~13日(日) ナビロフト 前売2800円 当日3000円 ユース2200円(25歳以下・要証明書) 劇団B級遊撃隊公式ホームページ

タグ:

bottom of page