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日本の推理小説の祖・小酒井不木の作品群を、奇才が演劇でコラージュ


同じ名古屋で活躍と言っても、分野も時代も異なる作家ふたりが出会ったら何が起きるのか。ひとりは日本で初めて本格推理小説を書いたとされる小酒井不木、もうひとりは劇団「少年王者舘」を主宰する天野天街。蟹江町出身の不木は大正時代から昭和初期にかけて名古屋で精力的に執筆活動を行い、一宮市出身の天野は1982年に劇団を旗揚げして以来、小劇場演劇のメッカ・七ツ寺共同スタジオを中心に作品を発表している。言うなれば、時を越えたコラボレーションの経緯を、天野に尋ねた。

「やっとかめ文化祭の実行委員会から話をいただいて、なんとなく面白そうだなと。不木は以前も文化祭で取り上げたことはあるそうなんですが、その時は人物像に焦点が当たっていて作品は絡まなかったので、今度は不木の作品そのものを舞台にしたいという要望でした。それで、まずは送られてきた『人工心臓』と『メデューサの首』を読んだんですが、不木の小説はほぼ短編ということもあり、結局、130本ぐらいある作品をほとんど読みました」

小酒井不木

天野天街

5年目を迎える「やっとかめ文化祭」は、名古屋の文化や歴史を芸術・芸能を通じて再検証する一大イベント。今回は10月28日(土)から1カ月近く、名古屋市内各所で様々な企画が催される。11月2日(木)に開幕する少年王者舘の「人工恋愛双曲線」もラインアップのひとつというわけだ。この夏には「シアンガーデン」を発表したばかりの少年王者舘が、矢継ぎ早に新作公演を行うのはめずらしいのでファンには嬉しいが、執筆中の天野はいつにも増して苦しんでいた!?

「“今の目”で見ると面白くない点が多くて。文学、推理小説として、僕には面白くないんです」

天野の言葉どおり、あくまで個人の意見である。『恋愛曲線』ほかの代表作で知られる一方、江戸川乱歩の才能にいち早く気づいて後押しするなど、不木が日本の推理小説史に功績を残したことは間違いない。恩義があったとはいえ、不木没後その全集を乱歩が監修したことからも明らかだ。ところで、そもそも天野と推理小説の関係はどんなものなのだろう。

「推理小説を読むのは昔から好きですよ。幻想に逃げない、論理が際立っている作風の方がいいですね。推理小説には、びっくりさせてほしいんですよ。頭を殴られるような、一瞬で絵が変わるような、驚きのある作品が好き」

この天野の志向は、確かに不木の作風とは相容れないところが……。

「不木は、理知の向こうにあるものに引かれているんですよね。因果モノが多く、医学的にえげつない展開も目立つけど、ドロドロしていない。どこか、あっけらかんとしているんです。僕から見ると、人間とは何か、人体とは何かという問題に至っていなくて、良くも悪くも深みがないというのか、文学的香気がない。博覧強記の化け物みたいな人なのに、作品には反映されていないんですよね……」

ホントに交わらないぞ、双曲線! ここから天野はマイナスの印象を逆手にとる。

「もはや、ナンセンスなのかとすら感じるところもあるんですよ。短い作品ばかりだから、落語の小噺や枕が集まったような芝居になるかも。桂枝雀のSR(=ショート落語・SF落語)みたいな感じのね。あと、“つまらない面白さ”をどうにかできないかと考えています。そうして奇妙な熱量、変な熱量が残る舞台にしたいなと。不木の作品は涼しいと言うのか、冷たい熱量の迫力を感じるんですよね……、不思議な人です。だから嫌いではないんですよ。ただ、間合いの取り方が難しい」

遅筆は周知の事実で、これまでにも小説や漫画を舞台化した経験を持つ天野だが、今回は過去見たことのないような悩み方。ただし、観る側からすれば、ちょっと新しいアマノワールド、新しい少年王者舘を観られるのではないかとも期待を寄せたくなる。 しかし、最後に天野から冷静かつオソロシイひと言が!

「不木を読むと、被害に遭った感覚になる。この芝居でも、観客は被害に遭うかもしれませんよ」

天野たちから受ける被害なら、それもまた面白い体験。読者には、ギリギリで届いたPVを見ながら気分を盛り上げていただきたい! *トップ画像は2017年8月公演「シアンガーデン」より 撮影:羽鳥直志

<やっとかめ文化祭> 少年王者舘「人工恋愛双曲線」 ◎11月2日(木)~8日(水) 七ツ寺共同スタジオ 一般3500円 学生2000円 ※学生券は当日、要学生証提示。 やっとかめ文化祭 公式サイト

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