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亡き深津篤史の傑作を、奇妙な絆で結ばれた平塚直隆が初演出


深津篤史が他界して3年が経とうとしている。関西を拠点に桃園会を率いた劇作家・演出家の深津は国内外で活躍。高く評価されながら、2014年7月、享年46で夭逝した。2016年7月には、彼の死を悼む人たちが戯曲集「深津篤史コレクションⅠ・Ⅱ・Ⅲ」を刊行。深津の作品世界を再び広く伝える一方、同9月からは、1年以上にわたる公演企画「深津演劇祭」を開催。ゆかりのある劇団が名を連ねる中、東海勢で唯一、平塚直隆の率いるオイスターズが参加することに。そこで経緯や心境を聞くため、稽古場の平塚を訪ねた。

「関西で深津演劇祭の実行委員を務めている中村賢司(空の驛舎)さんから連絡があり、深津さんの遺作を上演する演劇祭の計画をうかがいました。僕自身やれることがあればぜひという想いがありましたし、いろんな地域で展開したいから名古屋公演だけでも構わないという話だったので、劇団で参加することに決めたんです」

そうなると、次の問題は戯曲選び。いくつか目星をつけて読んだ中から、平塚は大胆にも(!?)「うちやまつり」を選んだ。同作は、深津に第42回岸田國士戯曲賞をもたらした傑作。それを関西勢ではなく、平塚たちが上演するのは意外だ。先頃は奇しくも、平塚の前作「ここはカナダじゃない」が第61回岸田戯曲賞の最終選考にノミネート。受賞は逃したものの、全国的に注目されたばかりの折に岸田戯曲賞受賞作を演出する流れとなった。

「『うちやまつり』は、いい機会だから読んでおこうと思っただけで、当初やるつもりはなかったんですよ。ただ、読んだ数作の中で、いちばんわからなかったんですよね……。何のことを言っているのか全然わからないのに、でも面白いと感じた。その漠然とした、モヤモヤとした面白さを演出したいと思ったんです」

前回公演「ここはカナダじゃない」より

考えてみれば、深津と平塚は奇妙な縁で結ばれている。平塚は活動初期の2000年、大阪で公演されたoff-Hプロデュース「仮説『I』を棄却するマリコ」に出演。推薦人でもあった劇作家・はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)の戯曲を通じ、平塚は初めて深津の演出を受けた。劇団を旗揚げする5年前の27歳当時。俳優としても、まだまだ若手だった。

「1カ月ほど大阪に滞在していた間、半分ぐらいは深津さんの家にいて、いろんな話をしてもらい、深津さんの考え方に触れました。演劇の師匠のようでしたね」

平塚が劇作家として頭角を現すようになると、愛知県文化振興事業団が主催するAAF戯曲賞の公開選考会で、深津が平塚の作品を論じる様子が目撃できた。その厳しくも愛情豊かな批評の光景は一種の風物詩だったほどで、深津と平塚をつなぐ重要なエピソードに。根底には劇作家・北村想の作品を愛し、師事したという共通点があり、直系ではないが確かに師弟にも映る。

「選考じゃなくても台本を読んでくださったり、逆に、初期の台本を貸してくださったこともあるんですよ。面倒見がよくて、何でも教えてくれた。僕にとって深津さんは、いちばん怖いけど、いちばん話した先輩演劇人だと思いますね。大好きで、尊敬していました。そして、だんだん凄くなっていくことも感じて……。舞台を観てわからないことも多かったので、こうして演出でもしないと深く関われないんでしょうね。今回は『うちやまつり』を通して、深津さんが何を考えていたのか知ろうとしてます。戯曲を読みながら深津さんを探れるんです。生きているうちだったら怖くてやれなかったかもしれません(苦笑)」

「うちやまつり」稽古風景

物語の舞台は巨大団地の一角にある小さな空き地、時は1月3日と4日。この団地では昨夏、殺人事件が3件も起こり、犯人はまだ捕まっていない。陰で犯人だと囁かれる「鈴木さんの息子さん」をはじめ、住人たちが行き交う空き地には〈生と死〉、さらには〈性と死〉の匂いが充満する――。深津作品独特のエロティックな空気、いびつで閉塞感のあるコミュニティ、随所に見られる“鳥”のメタファーなど、ミステリアスな趣向の多い不気味な劇。しかし平塚は、案外語られてこなかった点に光を見いだしている。

「『うちやまつり』あるいは深津作品に、ドライとか暗いという印象がありますよね。僕も最初は、そういうイメージでした。でも読んでみると、ところどころ笑える部分がある。そこをちゃんと笑えるように演出したら印象を変えられるんじゃないかと考えています。四方が大きい建物に囲まれた陰気さ、そのシチュエーションに飲まれちゃダメだと(苦笑)。そこで生きている人は、もうちょっとカラッとしているぞと。この方向性を意識して稽古するうち考えも深まり、確信となってきたので、幕開けからハッキリ示したいですね」

役者に演出意図を説明する平塚直隆(左)

喜劇センスに優れた平塚らしい視点。深津作品のイメージを鮮やかに更新してくれそうだが、反面、苦戦していることも……。

「うちの劇団の場合、“エロさ”をどう出せばいいのかなと(苦笑)。顔ぶれを見てもらえばわかるとおり、エロの要素が全くない(笑)。オイスターズにいちばん似合わないので、今までも意識したことがないんですよね(苦笑)」

だからというワケではないが、今回は多数の客演も迎えた。

「基準は見た目のいい子。昔のトレンディドラマみたいな感じで、愛と殺しの話にしたくて。そのためには“恋愛マスター”が揃っていないと面白くなっていきません(笑)」

実際、平塚は役者たちに対して「みんなイイ男、イイ女に見えてほしい。最終的にカッコイイ芝居にしたい」と注文をつけていた。どうやら平塚とオイスターズは新境地を拓く模様だ。そうなれば、亡き深津もきっと喜んでくれるのではないか。

なお、公演期間中3度のアフタートークを開催。前述の北村、はせに加え、劇団B級遊撃隊の佃典彦という深津・平塚どちらとも親交の深い3人が、回を分けてゲスト出演する。

オイスターズ 「うちやまつり」 ◎4月20日(木)~25日(火) 七ツ寺共同スタジオ 一般:前売2800円 当日3000円 学生:前売1500円 当日1800円 ※早期観劇割引あり。 http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/ http://fukatsu-collection.info/

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