東京乾電池20年ぶりの名古屋公演を柄本明が語る
柄本明を座長とする劇団東京乾電池が、およそ20年ぶりに名古屋公演を行う。演目は奇しくも、名古屋を代表する劇作家・北村想の代表作「十一人の少年」。劇団40周年記念プレ公演として企画され、若手俳優たちが中心となって上演したこの舞台は、すでに東京で好評を博している。演出を手掛ける柄本に話を聞いてみた。
「『十一人の少年』は“わからない”というところがポイント。読めば、書いてあることはわかりますよ。ただ、書かれていることの何がホントで何がウソかなんてわからないんです。戯曲は他者が書いたもので、戯曲という二次元のものを三次元に立ち上げる行為自体からして、演劇はどうなるかわからない性質をはらんでいる。その“わからない”ことが僕は面白いと思うんです。もちろん、想さんの戯曲に対する信頼は確かなものですよ」
「十一人の少年」を演出する柄本明
第28回岸田國士戯曲賞にも輝いた「十一人の少年」は、ミヒャエル・エンデの児童文学「モモ」を題材にした作品。題名にもある11人の少年たちをはじめ、盲目の少女スモモ、清掃局の演劇部員たち、そして想像力を奪う泥棒が登場する。ファンタジーであり、演劇をめぐる物語とも言えるが……。
「僕は“演出する”という考えで戯曲を読みませんし、稽古ではまず俳優に作らせてみる。それでおかしなところが出てきたら戯曲を読み返します。俳優によって立体化されたものと戯曲の間に立つのが、僕の思う演出の役割ですね。演劇って不自然なことをしているのに、『自然にやれ』と言うのはおかしな話(笑)。書いてあることは、すぐには言えないんです。他人の言葉が自分の中を通れば、違和感を覚えるにきまってるんですから。舞台の上では、俳優が楽しくやってくれればいいと思っています。ただ、じゃあ、楽しいとはどういうことか、そこに“苦しい”は入りようがないのかとも思いますけど。そうして俳優は、無限大の可能性の中から何かを選ばなきゃいけなくなる。それは無意識であってはダメ。意識的でなければいけなんです」
柄本の口から演劇に対する考えが次々と飛び出し、圧倒される。特に「ベケットやイヨネスコ、別役実さんの戯曲に向き合うと、演劇は観客が『ワーワー、キャーキャー』言うような“近いもの”にはならない。その距離感の遠さが演劇ではないかと。観客から遠ざかっていくもの、その距離が演劇だと思うんです」という発言は心に残った。北村も過去のインタビューで「絶対やっちゃいけないと戒めているのは、観客にシンパシーを持ってもらおうと思って書くこと」(2014年、ウェブサイトPerformingu Arts Network Japan)と語っているが、どこか通じるものを感じてしまう。
「想さんとは以前から顔見知りで、気になる存在ではありました。ある時、流山児祥に脅され、日本演出者協会への入会のハンコを押さされましてね(苦笑)。演出者協会が岐阜県中津川で開催したイベントで、僕がワークショップをやったんですよ。そうしたら、後ろの方でニヤニヤしながら見ている想さんの姿があった(笑)。その後、カミさん(角替和枝)が『寿歌』をやりたいと言って、僕と彼女と西本竜樹という劇団員とで楽しくやらせてもらったところ、それを想さんも気に入ってくれまして。そこから劇団創立40周年記念作品『ただの自転車屋』を書き下ろしてもらうことにもなったんです」
柄本も北村も演劇キャリアは長いが、近年ぐっと距離を縮めた様子。そんな関係もあって東京乾電池は今回、かつて北村が拠点としていた劇場・ナビロフトにお目見えする。
「ナビロフトは面白い場所だなと感じました。まず住宅街にあるでしょ?そこで夜な夜な何かが行われているんですから(笑)。そういうナビロフトでクスクス笑えるものができたらいいですよね」
「角度は変えて見れば何でも笑えるんですよね。演劇は“見方”の問題でもあるんです」という柄本の言葉を聞いても、「十一人の少年」を私たちが今どう見ることができるのか、楽しみは尽きない。なお、初日の11月16日(水)19:30の終演後にはアフタートークあり。柄本と北村から深い演劇論が語られるか、はたまた……!? サービス精神は旺盛なご両人につき、これまた楽しみだ。
劇団東京乾電池 「十一人の少年」 ◎11月16日(水)~20日(日) ナビ・ロフト 一般:前売2800円 当日3300円 学生:前売1500円 当日1800円 http://www.tokyo-kandenchi.com/ http://naviloft1994.wixsite.com/navi-loft