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KUDAN Projectの出発点となった「くだんの件」が11年ぶりに復活


少年王者舘の天野天街、tsumazuki no ishiの寺十吾、てんぷくプロの小熊ヒデジ。劇作家・演出家と役者ふたりを核とする演劇ユニット、KUDAN Projectが「くだんの件」を復活させる。同作はKUDAN Projectの出発点となった二人芝居で、今回実に11年ぶりの上演。キャストでありプロデューサーでもある小熊に、まず経緯を尋ねた。

小熊「『くだんの件』をやらなかった間、静岡や三重で『真夜中の弥次さん喜多さん』を上演したところ評判がよく、KUDAN Projectとしても評価を得られたのか、『くだん』はやらないの?という声をいただくようになったんですよ。『くだん』は1998年にKUDAN Projectの旗揚げ作品として海外公演も行ったので、僕自身、復活させたい想いはありました。そんな頃、スタッフサイドからも『そろそろやろうか』という声が上がってきたので、まずは三重県文化会館の方々に相談してみたら、実現できることになったんです」

作品そのものの初演は1995年。小熊の別ユニット「キコリの会」のために天野が書き下ろした。1998年再演の際、小熊の相手役が寺十に代わり、KUDAN Projectも発足。以降、しりあがり寿の漫画を原作とした『真夜中の弥次さん喜多さん』、筒井康隆の小説を原作とした『美藝公』を発表している。天野・寺十・小熊3人とも本来の所属劇団は異なり、拠点も名古屋・東京と離れていながら、何故これほど長く続けてこれたのだろう。

天野「1998年の再演で小熊さんの相手役が寺十くんに変わったことは、その後の流れを決定づけたと思います。また、新たな出発が海外からだったことも大きな原動力になった。自然と結束力が高まりましたからね」 小熊「僕からすると、寺十くんと相性が良かったのも理由にありますね。海外で初日を迎えるというのは相当インパクトのある出来事で、正直すごく怖かった(苦笑)。ホテルで同室だった寺十くんとギリギリまで稽古を重ね、結果、大成功に終わった経験が、後々に影響していったと思います」 寺十「でも、小熊さんと続けられたのは結果論。だから『相手役は僕でなければ…』なんて言いませんよ(苦笑)。小熊さんも、僕が死んだら遠慮しないでね。再婚してください(笑)」

左が寺十吾、右が小熊ヒデジ

振り返れば、国際共同製作でもないのに台湾・香港での公演がカンパニーの船出であったことは、異例というか異様な状況にも映ったが、公演は国内外の各地で大絶賛を浴び、成功を収めた。「くだんの件」とは一体どんな魅力と実験を秘めた作品なのか問い直してみる。

天野「小熊さんから二人芝居の依頼を受けた当初は“完結するもの”“終わりのあるもの”を初めて作ってみようと考えたんです。少年王者舘でやる時はギリギリまで作り続け、完結しない感覚があるけど、『くだん』ではいわゆる演劇のようなものを作るというか、『俺でも普通のことができるんだよ』というところを見せたかったんです」 小熊「天野くんとは『高丘親王航海記』『巷談風鈴横町』でも一緒にやっていましたが、ここまで濃密に関わったのは『くだん』が初めてで、初演は何が何だかわからなかった(苦笑)。それこそKUDAN Projectで始めてから、少し把握できるように……」 寺十「作品の把握は今でも難しいですよね」 小熊「常に発見があるし、手触りとかも変わってくるしね。やっぱり面白いですよ。次から次へと短い間隔でいろんなイメージが飛び出してきて、連鎖反応を起こし、イメージを増殖させていく。濃密に情報が詰まっていて、面白い芝居だなと身体で感じます」 寺十「正直言うと『くだん』から始まって『弥次喜多』『美藝公』と来たのに、今回また『くだん』をやるのは“戻る”みたいで、ちょっと抵抗感はあった。ただ、別のキャスト、例えば矢野健太郎さんと入馬券さん(※ともに、てんぷくプロの怪優)がやることを想像したら、絶対に面白くなるからシャクだなと(笑)。それで『じゃあ、やろう』と思えたんです」

舞台は、ある夏の日。ひとりの男のもとに、過去の記憶をたどって別の男がやってくる。ふたりはヒトシとタロウという名のようで、半人半獣の“クダン”をめぐって会話を繰り広げるが、どうもハッキリしない。頭が人、身体が牛で、災いを予言するという怪物クダンは本当に現れるのか?

寺十「他の2作品に比べても、『くだん』の方が明かされていないことが多く、まだわかっていない部分が大きいと思うんです。このあいだ初めて天野さんの手書き台本を見たんですけど、文字入力された清書の台本にはない書き込みがたくさんあったんですよ。それは天野さんの思考の経過だったり、本番では削ぎ落とされたところだったりする。劇中の七夕のくだりなんかでも、ふたりの家族とか集団疎開のいきさつとか背景が気になりますよね。この作品には見た目だけとは違う深みがあるんです」

最後の上演から約10年の歳月を経たことも作品の深みにつながりそうだが、動きや段取りの多い芝居でもあり、劇中で少年に戻る展開も、今どう映るのか気になるところ!?

天野「10年前と今とでは違うものだと考えてやるだけですよね。別人の小熊さん&寺十くんと、同じ台本をやるだけという……。もともと、ちょっとずつマイナーチェンジはしているんですよ。ただ、今回は老人から少年に戻りますからね。見る影もなくなったタロウとヒトシが現れますよ。でも、ふたりの実年齢と少年までの距離が遠くなった分、ダイナミックなものにはなりますよね。もはや『コレが少年かい!』という次元で、変な色気もない。代わりに、作品の陰影がもっと出るはずです」 小熊「そういう年齢になるもんですね(笑)。でも、まだ身体は動きますよ! 正直なところ最初は心配が大きかったんですよ。それが、読み合わせをしてみたら大丈夫だと感じた。今の寺十くんと僕の在るままででやれそうだと実感したんです」 寺十「僕はDVDを観て『こんなに動けないな』と思いましたよ。ふたりとも五十肩で手が上がらないし(苦笑)。小熊さんが右肩で、僕が左肩(笑)。もう、ごまかしながらやることにしました」 天野「役者に無理はさせませんよ。その方が面白くなる気がする。勘だけど」 小熊「僕も面白くなりそうな気がするので、今の寺十くんと僕と、今の状態で『くだん』をやってみることを楽しめたらいいなと思っています。そうすることが、いちばん面白くなる方法なんじゃないかと」

身体のキレも変わりなし!

ちなみに、稽古を取材して気づいたのだが、小熊も寺十も声の印象にほぼ変わりがない。役者を評するのに「一声、二顔、三姿」なんてフレーズがあるほど、役者の声は舞台の良し悪しを左右する要素。ふたりの声を聴くにつけても本番が待ち遠しくなった。それでも最後に、小熊プロデューサーからダメ押しのひと言!

小熊「KUDAN Projectの舞台は、キャストの演技だけじゃなくスタッフワークも見どころ。二人芝居ですが、スタッフ一丸となった13人芝居でもあるんです。舞台美術、映像、道具類と、一分の隙もないほど要素が詰まっているから、『くだん』も濃厚、濃密に映るんだと思います。初めて観る方はきっとビックリしますよ」

*写真はすべて稽古風景

KUDAN Project「くだんの件」 ◎11月5日(土)・6日(日) 三重県文化会館小ホール 一般:前売3000円 当日3500円 U-25:前売2000円 当日2500円 高校生以下:前売・当日ともに1500円 ◎11月11日(金)~13日(日) AI・HALL(伊丹市立演劇ホール) 一般:前売3000円 当日3500円 U-25:前売2500円 当日3000円 http://www.officek.jp/kudan/

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