勅使川原三郎芸術監督プロデュースによる2作品が間もなく連続公演
愛知県芸術劇場の芸術監督、勅使川原三郎による2022年度プロデュース公演が立て続けに幕を開ける。まず9月3日(土)・4日(日)にダンス「風の又三郎」が再演され、9月16日(金)・17日(土)には新作「勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス 天上の庭」が発表される。公演に先駆ける8月には記者会見が行われ、勅使川原芸術監督、ダンサーの佐東利穂子が、2作品それぞれの創作状況などを語った。
勅使川原「(2021年の夏に初演された)『風の又三郎』はすぐに再演の話が出たほど成果が素晴らしかった。他の都市や外国にも持っていける作品です。ファミリープログラムだからと言って子どもに合わせることはせず、大人も子どもも共有すべきは何かと考えて創作しました。宮沢賢治の原作に描かれた出会いや戸惑い、喜び、発見、あるいは季節の変化と人生の転換期……、それらは誰もが感じ得ることですよね」
佐東「『風の又三郎』は、あらためて名作だと思います。(舞台上に流れるナレーションとして原作の一部を)朗読していると、読むのが面白くて、なおさら生き生きとしていくのを感じます。目に見えているものだけでなく、まさに風、リズムが運ばれてくる。そしてある瞬間、子どもの頃に感じた淋しさや不安が深く感じられるんです。ダンスとの構成も合っているので、踊り続けることで作品を大きく豊かにしていけたらいいなと考えています」
ダンス「風の又三郎」には勅使川原は出演しないが、演出、振付、美術、衣装、照明デザインで存分に手腕を発揮。オーディションで選ばれた東海圏ゆかりの若手ダンサーたちも、みずみずしい動きで観る者を引きつける。山奥の子どもたちと転校生とのひと夏の出会いを描いた原作が見事に舞台化した世界は、時に土着的であったりユーモラスでもあったりするので、勅使川原作品に都会的でスタイリッシュな印象を持っていると驚きも大きい。
ダンス「風の又三郎」より (C)Naoshi Hatori
一方の新作「天上の庭」には勅使川原も出演。佐東とともに、ヨーロッパで高い評価を受けているフィンランドの演奏家、ヨナタン・ローゼマンのチェロとじっくり向き合う。曲目はCMでもよく耳にするJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲」、カサド「無伴奏チェロ組曲」という二つの組曲からの楽章に加え、コダーイ「無伴奏チェロ・ソナタ Op.8」。ストーリーはなく、音楽とダンスから成る純度の高いパフォーミングアーツだ。
ヨナタン・ローゼマン (C)Heikki Tuuli
勅使川原三郎と佐東利穂子 (C)Bengt Wanselius
勅使川原「“天上”とは地上に対する言葉として、浮世から離れた世界を指します。現在の難しい社会情勢の中で、私自身、日常の煩わしい話に飽き飽きしていて、物事が純粋にそのままあったらいいなという想いがありました。文学的なメッセージは一切なく、純粋に音楽とダンスで何ができるかを追求したい。庭で遊ぶような、戯れるような、遊戯性をもった作品になると思いますよ。ローゼマンは若手のほうですが、その人間性が表れたような穏やかな演奏には高い音楽性を感じます。私と佐東とローゼマン、三人三様のあり方や音楽性がどう調和するか。チェロの音色は楽器の中でも人間の声に近いと言われ、形も近いので、もうひとり人間がいるような気もしています」
佐東「ローゼマンとは初めてのコラボレーションですが、プログラムを考えている最中にリハーサルの機会を設けられたのは良かったと思っています。好き嫌いではなく、この3人ならば何があり得るか、ニュートラルに話ができましたから。彼の音楽を身体で感じている、全身で聞いているという感覚を得られたのも面白かったですね。生のチェロの演奏、チェロの曲だけで踊るのは初めてなので、今とても楽しみです」
なお、ローゼマンからもメッセージが届いており「ここ数カ月、お二人に会う光栄を授かり、とても多くのインスピレーションを受けています。勅使川原さんの芸術に対する考えは啓示的で、私自身の考えも活気づき、ユニークで特別なものを創りたいという気持ちが増しています。このような想いは初めて」と紹介された。早くも好相性を思わせる3人の様子から、本番への期待も膨らむばかりだ。 *トップ画像は、ダンス「風の又三郎」より (C)Naoshi Hatori
ダンス「風の又三郎」
愛知県芸術劇場芸術監督 勅使川原三郎 演出・振付
◎9月3日(土)・4日(日)
愛知県芸術劇場大ホール
ダンス・コンサート
「勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス 天上の庭」
◎9月16日(金)・17日(土)
愛知県芸術劇場コンサートホール
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