ヨーロッパ企画がミステリコメディに初挑戦!
京都を拠点に全国的な活躍を見せるヨーロッパ企画が、上田誠の作・演出による「切り裂かないけど攫い(さらい)はするジャック」を発表する。同作は彼らにとって初のミステリ。劇団25周年に当たり、得意とするコメディにまた新たな要素を織り交ぜたわけだ。創作の過程や四半世紀を迎えた劇団の現在について、上田に尋ねた。
「演劇ではまず、ダイイングメッセージや密室の間取り図、刺し傷などが小説のようには見せられませんよね。舞台でミステリをやろうとすると扱う事件から変わってくる。それで『さらう話』にしたところはあります。演劇でミステリをやるにはどうすればいいのか、そこからちゃんと考えました。また本格推理となると、作家である僕の比重が高くなるけど、役者にも作業時間はあったほうがいい。例えば19世紀のイギリス人の暮らしを調べることで、役者はその世界を演じる楽しさにつなげられます。そういう意味でも世界観を持たせたミステリにして、間口を広げました」
時は、切り裂きジャックの事件が起きる前。人が次々と消える事件が起こり、ロンドン警視庁、いわゆるスコットランドヤードが動き出す。刑事たちは路上販売人やパブの女主人、ミートパイ屋など街の住人に聞き込みを行い、さらに探偵も登場。連続失踪事件の真相が解き明かされていく。
「切り裂きジャックはセンセーショナルだけど、人さらいジャックは身代金目的といった動機が見えてこない場合、曖昧模糊とした事件になるんですよ。そんな中で街の人たちは得手勝手に推理を始める(笑)。劇場型犯罪が起きると、一般人の推理が過熱することってありますよね。劇団で創作する上では、ミステリ的な状況での推理合戦というか、登場人物たちがわちゃわちゃする群像劇を見せることが重要でした」
赤川次郎が執筆しながら犯人を誰にするか考えるという逸話も踏まえ、上田はミステリの様式美はおさえつつ、結末の仕掛けや着地点を詰めないまま稽古を始めた。
「とりあえず出だしを面白そうに書いて進めたら、自分の中で結実する感覚を得ました。連続ドラマの脚本も辻褄合わせや伏線回収は大事ですけど、やっぱり頭から書くんですよ。じゃあ、問題だけ投げたら稽古を始めてみて、答えは後回しにしようと。僕にとって稽古場の時間は大きくて、そこで解決することがあるんです。さらうということで言えば『人が人一人をさらうのは本当に可能なのか。犯人は複数と考えるほうが自然じゃないか』という推理をしたとしますよね? でも意外とできたとか、生身の人間が動くことでわかる実感やリアリティがある。逆にキャストが揃わないとわからないこともあって、その点でも演劇で作るミステリは違うなと感じますね。人の重さが表れてしまうんです」
集団創造ならではの取り組み方は一貫している。上田の稽古に対する信頼は劇団25周年のタマモノだろう。ただ、その道のりには葛藤もあった。
「大学在学中に劇団を始めましたが、卒業したら上京して放送作家や脚本家を目指そうと思っていました。それが、面白くて劇団を続けることになったんですけど……。30歳くらいの頃、劇団があると他の仕事ができないというジレンマに陥って。外の世界で羽ばたきたい想いと劇団でやりたい想いの両立は難しかったです。ただ、考えてみれば劇団がある状態って相当めずらしいんですよ。みんな辞めちゃいますから。僕は小説を書きたい想いもあるけど、それは明日やろうとしてもできる。でも劇団はそうはいかないので、劇団でいる状態のほうがすごいと思えるようになっていったんです。以降、映画でもドラマでも劇団全体で参加する形を取りました。チップをすべて劇団に置くと決めたら、幸いなことに状況も付いてきたんです」
上田だけでなく劇団員それぞれ活躍の場が広がり、俳優たちの姿を映像作品やCMで見る機会も増えた。最近では劇団ひとりらがキャストに並ぶ配信作品で、上田が脚本を担当。彼の口からはコメディと向き合う上での真剣な本音が語られた。
「僕たちはコメディをやっているので、芸人さんと仕事をすることに向き合ったほうがいいと思うんです。日本は『お笑い』が発展しすぎて別のジャンルになっていますが、海外から見たらお笑いがジャパニーズコメディで、演劇界でコメディをやっている存在は謎に映る。でも僕らもジャパニーズコメディではあるので、芸人さんと渡り合えるほうがいいし、演劇界より芸人さんと付き合うほうがいいんじゃないかと。ただ、テレビや映像ではドラマとバラエティの制作が分かれている。だからこそ、お笑いと物語を融合する立ち位置にいたいと考えているんです。仲間が増えればいいなとも思いますね。ヨーロッパ企画みたいな劇団がもっとあっていいのに、同じような活動形態の劇団がほとんどない。今は孤軍奮闘です(苦笑)」
撮影:井上嘉和
ヨーロッパ企画
「切り裂かないけど攫いはするジャック」
◎2023年11月3日(金・祝) 13:00
ウインクあいち大ホール
※前売券は完売。当日券のお問合せはサンデーフォークプロモーションTEL 052-320-9100まで。
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