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ヨーロッパ企画が2008年発表の傑作を再演


京都の劇団、ヨーロッパ企画が2008年初演の「あんなに優しかったゴーレム」を14年ぶりにリメイクする。ヨーロッパ企画が過去の作品を再演するのは、ちょっとめずらしい。作・演出の上田誠、俳優の中川晴樹に経緯などを尋ねた。


上田「再演はやりたいんですよ。映像作品でも実感していますが、同じ主題に繰り返し取り組むことで温まっていくものもあるので……。演劇において、深めたいと思う代表作のひとつが『あんなに優しかったゴーレム』(以下『ゴーレム』)でした。シンプルに面白く、ヨーロッパ企画らしさもある。そして初期の作品には、僕らのプリミティブな何かが詰まっています」

中川「昔の作品は、きれいなんだよね。今は散らかすほうが面白くなっているけど、当時はちゃんと真っすぐ、やりたいことが一個でね」

上田「僕らもまだ20代でしたから」


舞台は空き地。ある野球選手と、彼を追うドキュメンタリーの撮影班がやってくる。空き地の片隅にはゴーレムの姿。ゴーレムとは土でできた幻想の怪物だが、その選手はかつてゴーレムと過ごした思い出を語り始める。撮影班は思いがけないファンタジーに食いつき、選手ほったらかしで奔走!? 同時に街の記憶も掘り下げられていく。その様子は可笑しくもありサイコホラー的でもあり、どんどん深みに……!!


上田「面白いことって、見たことないとか珍しいことと似ていて、未知なるものを面白がるには体力がいりますよね。今は物語でも何でも、あらすじが先にわかっていないとお客様に楽しんでもらえない時代。でも僕は少し考えが違うせいか、自分の中で面白い!というものが作れた時ほど、気持ち悪がられることが多い。なんか怖かったとか、ゾワゾワしたとか……。『ゴーレム』もシリアスな問題をはらんでいますが、絶妙な切り口でちゃんと笑えるものになっています」


切り口と言えば、「ゴーレム」はドールハウスを上から真っ二つにした断面を横から見るような舞台美術も特徴で、滑稽さを増幅させている。


上田「僕は“登場”がむちゃくちゃ好きで、例えば吉本新喜劇だったら登場に音楽まで掛かるじゃないですか。あれは正しい重みづけだと思っています。『ゴーレム』は、最初に横から登場するゾロゾした感じや各々の出方が良い塩梅。そこは舞台美術の力も大きい」

中川「演じる側として、作家が登場をそんなに意識しているとは知らなかったです(笑)」

上田「反対に、誰もいない空間も好き。みんな去って0人という状態」

中川「それこそ『建てましにつぐ建てましポルカ』という迷路コメディの時は、登場人物が目的の場所になかなかたどりつけず、観客は迷路だけ観ているという贅沢な時間がありました。今回も、ゴーレムがいるだけで“観てられる”という感覚はあるかもしれません」

上田「あと、地面が高い位置に設定されているせいで緊張感があるんですよ。人が出て来るだけなのに、すごく高いところにいるから特別な空間になるというのか。ゴーレムを信じる人ほど地下や奥に行って、信じない人は地上にいる。その境界が地面になっています」


「信じる/信じない」の問題は、宗教などにも通じるデリケートな領域にあるが……。


上田「ゴーレムなんて動くはずないという考えが大多数だとして、じゃあ、地蔵を蹴っ飛ばすか?と尋ねたら多くの人はできない。日本人の意識のグレーなポイントですよね。そこを破ることに芸術的感動もあったりするから面白くも難しくもある」


リメイクとはいえ、エチュードを重ねて劇が構築されていくのは初演同様。毎回かなり趣向が異なるのに、「ヨーロッパ企画を観ている」と強く実感できるのは凄いことだ。


上田「『ゴーレム』で言うとドキュメンタリークルーのアノ感じって、群像の在り様という点で発明だったと思うんです。創作の度、新しい群像を発見できてきたことは大きい。劇団だから顔ぶれはほとんど同じなのに、みんなが稽古でやれることをやった上で毎回違う群像を発見できるのはエライもんだなと。俳優は違う演技体をかなり意識的にやっていて、ヤクザならヤクザ、貴族なら貴族と、集団ごとに言葉遣いも変える。これは劇団として自慢すべきところで、『ゴーレム』もそこがうまくいっています」

中川「初演の頃、テレビとかに出させてもらえるようになって、関西のクルーと仲良くなったので、彼らの真似をずっとしていた。テレビクルーごっこのような感じですね」

上田「“ごっこ”をやり抜くことは大事です」


それを批評的に客観視して提示するから角度鋭い笑いが生まれる。


中川「批評的は良い言い方で、僕らはイジってる(笑)」

上田「しかも個々で変わった人物像を物真似する一人芸ではなく、集団で表現している。それと、いつも素敵な組み合わせがあるんですよね。部室とタイムマシンとか、喫茶店とエスパーとか。『ゴーレム』ではスポーツのドキュメンタリー班“ミーツ”ゴーレムというのがイイんです」


*舞台写真は初演の様子 撮影:清水俊洋


ヨーロッパ企画

「あんなに優しかったゴーレム」

◎10月25日(火)19:00

ウインクあいち大ホール

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