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俳優でも凄いドランに目が潤む!?


グザヴィエ・ドランを観ていると、心をぎゅうっとつかまれて、なんだか泣きそうな気持ちになってしまう。例えば、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した時のスピーチで。そして、映画「エレファント・ソング」の中に生きる俳優ドランの姿に――。

この3月に監督作「Mommy/マミー」が公開されたばかりのドランだが、6月に封切られる「エレファント・ソング」では俳優の才能を見せつけている。4歳で俳優としてキャリアをスタートさせたドランには自然なことかもしれないが、2009年の監督デビュー作「マイ・マザー」でいきなりカンヌ国際映画祭の監督週間部門に選出されて以降、監督した4作品すべてがカンヌあるいはヴェネチア国際映画祭に出品されるという快挙を果たしてきた今となっては、“監督ドラン”の方が当たり前に。実際「エレファント・ソング」を監督したシャルル・ビナメもその点に配慮して、ドランに「現場に監督はひとり」と釘を刺したという。ただ、それが取り越し苦労となるほど、ドランは映画人としてクレバーだった。

「エレファント・ソング」の中でドランが演じるのは、精神病院に入っている青年マイケル。マイケルは幼少の頃、オペラ歌手だった母親を自殺で亡くし、孤独ゆえの深い闇を抱えている。なぜか象に異様なまでの執着を見せる彼は、院内きっての問題児でもあった。そんなマイケルが、突然起きた医師の失踪騒動に関与している気配を……。そこで院長のグリーンは彼と面談。心配する看護師長ピーターソンをよそに、院長グリーンと患者マイケル、一対一のヒリヒリとした心理攻防が始まる。

ドランは原作であるニコラス・ビヨンの戯曲を読んで「これは僕だ」と直感、マイケル役を熱望して出演が決まった。“母と息子”というテーマと切っても切り離せないドランが、このサスペンスの根底に流れる“親と子”や“家族”の問題に共鳴したのは必然だったのだろう。院長グリーンと看護師長ピーターソンは元夫婦で、ふたりは愛娘を水難事故で失っていたのだ。こうして亡き母親とマイケル、グリーン&ピーターソンと亡き娘の関係が微妙に重なりながら、映画は驚きの結末へと向かっていく。なお、グリーン役には「スター・トレック」パイク提督役で知られるブルース・グリーンウッド、ピーターソンは「マルコヴィッチの穴」「カポーティ」のキャサリン・キーナーだ。

実世界では26歳の男性であるドランだが、マイケルを演じる姿は、母を亡くした14歳の時のままと言わんばかりに、子どもっぽさを残していて愛おしい。それでいて、自分の言い分はクールなまでに理路整然と展開。その落差に狂気を感じてゾクゾクするも、終始どこか淋しそうで、存在の哀しさに思わず目がウルウルしてしまう。しかも同時に色っぽいからズルイ。正直に言えば、筆者はもうドランの術中にハマってしまっている。

前述したカンヌのスピーチでも、いわゆる“アンファン・テリブル(恐るべき子ども)”でありながら斜に構えたところが一切なく、映画に対する真っ直ぐな愛や夢、想いを世界中に向けて発信。ある意味こんな純朴な青年がいるのかと、泣きそうになってしまった。それは、ドランのような表現者を同時代に見られる喜びの涙だと思う。

いま世界が最も熱い視線をおくる映画人、グザヴィエ・ドラン。「エレファント・ソング」の公開を記念して、名古屋ではドラン監督作品の特集上映も行われる。ドランの過去と現在を知って、彼と映画の未来に想いをはせてみるのもいい。

「エレファント・ソング」 ◎6月6日(土)~、名演小劇場にて公開 http://www.uplink.co.jp/elephantsong/

◆「エレファント・ソング」公開記念 グザヴィエ・ドラン特集◆ 「マイ・マザー」◎5月23日(土)~29日(金) 「胸騒ぎの恋人」◎5月23日(土)~29日(金) 「わたしはロランス」◎5月30日(土)~6月5日(金) 「トム・アット・ザ・ファーム」◎6月6日(土)~12日(金)

「Mommy/マミー」◎6月13日(土)~19日(金) 名演小劇場にて上映 http://homepage3.nifty.com/meien/

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