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映画化も話題!宅間孝行の作・演出による「あいあい傘」名古屋初登場


脚本家・演出家の宅間孝行が、東京セレソンデラックス時代の2007年に発表した「あいあい傘」を現在率いるタクフェスで再演。名古屋でも初披露する。同作は宅間自身の監督で映画化。今年10月に公開されており、時期を同じくして舞台版も帰ってきたわけだ。映画と演劇では出演者が異なり、設定も少し違うので見比べるのはオススメだが、宅間に話を聞いてみると、生の芝居をいっそう観てほしいと率直に思っている。

「キャストに関しては、まず市原隼人さんと僕が同じ役を演じている時点で、映画と演劇のキャラクターに同じものを求めてはいませんよね(苦笑)。そもそもキャスティングは僕も意見を出しますが、プロデューサーの負う部分は大きいので……。映画は男性、演劇は女性のプロデューサーで、初演の舞台から受けた印象の違いがそれぞれの発想に影響しているところはあると思います。父親役については、“お父さん”像が男女で違うようですから。ちなみに一部では、舞台の方がイケメン度が上がっているという意見もあります(笑)」

主人公の自称カメラマン・高島さつきは、祭りの日を迎えた恋園神社のある町にやってくる。彼女の目的は25年前に失踪した父・六郎を探し、家に連れ帰ること。一方、25年前に突然この町に来た六郎は茶屋「恋園庵」の店主・玉枝と暮らしているが、玉枝の娘とはうまくいっていない。テキ屋たちも集まってきて賑わいが増していく中、さつきは六郎の姿を見つけるが……。「生き別れ」を題材にした理由を尋ねると宅間個人の記憶や体験とつながっていて、聞いてよかったのか動揺したが、それでも宅間は穏やかに話を続けてくれた。

「僕のおじいちゃんとおばあちゃんは内縁関係で、おじいちゃんは戦争が終わると家に帰らず、おばあちゃんと暮すようになったんです。おじいちゃんは学習塾みたいなものをやっていて、母がそこに通っていたんですよね。そういうこともあって、祖父母や親の世代、戦争が絡む世代って興味深いなと。今はシングルで子育てしている人もめずらしくありませんが、当時は違いますから、僕の意識の形成には影響しているかもしれません。それと『あいあい傘』は結婚した時期に作った芝居なんですよ。初演の2週間前に式を挙げたかな。その後、子どもも授かって家庭を築いたけど、離婚を経験して、子どもとも会えなくなって……。あの頃わかっていなかった家族や男女のことが、今はわかるんですよね」

さつき役には星野真里、六郎に永島敏行、玉枝に川原亜矢子らがキャスティングされ、人間の複雑な心模様を丁寧に描いていく。また、さつきに一目惚れするテキ屋の清太郎役で宅間も登板。鈴木紗理奈やモト冬樹らとともに舞台を楽しく盛り上げる。

「今回かなりリライトしたんですよ。再演物で初めてのこと。以前は映画っぽいと感じていた作品ですけど、取り組み直してみると、王道の芝居じゃないかと思い始めて。劇的要素は少なく、古典落語のような作品なんですよ。だから語り手によって変わる。シンプルでたわいもない物語だけに、役者の力量やキャストの組み合わせが大きく作用するんです。また、舞台で大事なのは“ぜい肉”がいかにあるか。そう考えると『あいあい傘』は芝居らしい芝居で、味わい深いものになっているという自負も得た今は、ずっと上演していく作品だと思っています。自分自身この作品への評価が変化したことには驚きですね」

自作といえど、すべて手の内にあるわけではないことが創作物の面白いところかもしれない。特に演劇は、上演を重ねることで作品を新たに発見できる、作品と出会い直すことができる。宅間は最後にユニークな例えで「あいあい傘」を表現し、和ませてくれた。

「小劇場という世界で、毎回、ホームランを打つ必要に迫られてきましたが、『あいあい傘』はエンタイトルツーベースに当たる作品だと思うんですよね(苦笑)。それが10年以上経ったら映画にもなるほどで。出来の悪い子がいつの間にか大学を卒業して、結構いいところに就職が決まったみたいな感じ(笑)。オーソドックスで遊びがある分、物語が成熟していくんでしょうね。ストーリーもさることながら、役者を見られる芝居なのも良いところだと思います。僕なんて、物語上は責任のない役なので、勝手に遊びまくってますよ(笑)」

タクフェス「あいあい傘」 ◎12月6日(木)~9日(日) ウインクあいち大ホール 全席指定8000円 タクフェス「あいあい傘」公式H 中京テレビ事業

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