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北村×鹿目の唄わぬ歌謡エンゲキ!?


70年代から演劇界の第一線で活躍を続ける北村想と、次代の牽引役である劇団あおきりみかんの主宰・鹿目由紀。キャリアは違えど同じ名古屋を拠点としてきた両人が手を組み、新作を発表する。キャストは総合劇集団俳優館の徐梨恵とフリーの空沢しんか、女性ふたりのみ。彼女たちも関係しているという企画の経緯から鹿目に尋ねた。

「想さんとは、ごくごくたまにメールでやり取りしていたのですが、ある時たまたまお食事する機会があって。そこで誰か連れていこうと思い、徐さんと空沢さんにも一緒に来てもらったんです。そこでなんとなく、想さんが本を書いてくださることになり、それから間もなくして、台本が届きました」

執筆が異様に早いことで有名な北村らしいエピソード。かくして、劇作・北村想×演出・鹿目由紀のコラボレーション「偶然の旅行者-The Accidental Tourist-」は動き始めた。北村をその気にさせた役者ふたりについて、もう少し突っ込んでみる。

「徐さんは世代こそ離れていますが南山大学の後輩で、あまり女っぽさを感じさせないサバサバした人。彼女の出た舞台を2回ほど演出したことがあり、役者としても個性的で面白いなと思っていました。空沢さんは現場を共にしたことはないんですけど、いろんなところで会う度に親しくなり、出演する舞台を拝見しても良い役者だなと。ただ、自分が演出するんだったら空沢さんの違う魅力を引き出してみたいなという想いもありました」

台本、役者、タイミングすべてが整った。さて、劇の中身は?

「最初の一読では、面白さとともに何か抒情的なものも感じました。フォークソングを中心に、70年代の歌謡曲を思い起こさせるフレーズがちりばめられているので、考えてみたら当たり前なんですよね。歌詞って抒情的ですから。あくまで台詞なので唄いはしませんが、エモーショナルな場面に歌詞が出てくると、あたかもミュージカルの気分になりますよ。私は1976年生まれで、正直わからない曲も入っていたりするんですけど、それを含めて『鹿目だったらどう演出するか』ということを想さんが考えてくださったように思います」

演出の鹿目由紀

舞台は、ある廃駅。そこに暮らす女・おと、そこへ降り立った女・晦ひろが出会う。ふたりは“旅”をめぐる会話を繰り広げながら、時に男女の情愛話も……。それらが懐かしい歌詞を織り交ぜて展開されるので、曲を発見する宝探しみたいな楽しみがあり、知らない曲ならば美しい台詞として味わう楽しみがある。知的な遊び心は北村らしい。

「想さんのコメディセンスが反映された台詞にクスクスと笑いながら、やがて表層ではなく旅というものを知る感覚の作品。また、晦さんは過去に男性と何かあったらしく人生に疲れている気配を漂わせていたり、おとさんも物知り顔の奥に孤独や哀しみが隠れていて、ふたりの背景を想像する面白さも。私自身、読み解いていくことを楽しんでいます」

いわば鹿目、徐、空沢の3人に贈られたような戯曲。鹿目が「やるほどに愛着がわく」と言うのは至極当然だ。ちなみに、徐は本作を区切りに演劇活動を休止するため、「はなむけにもなってよかった」と鹿目。しかも、執筆時には全く決まっていなかったにも関わらず、演劇を離れる状況と結びつく台詞も飛び出すんだとか。そういう予言めいたことをするあたりも北村らしい!? 最後に、なぜ今、70年代の歌なのか、鹿目の解釈を聞いてみた。

「年代的な世界観があって、誰が演出しても昭和をイメージさせる戯曲だとは思います。70年代の社会事情が少し出てきたり、ふたりが昔話をしたりするんですけど、そこから感じるのは『変わんないな』ということ。繰り返されているだけで、やっていることも言われていることも同じじゃないかと。結果この芝居は現代、今に当てはまると考えています」

エス・エー企画 「偶然の旅行者-The Accidental Tourist-」 ◎12月15日(木)~18日(日) 木金19:30 土14:00/19:00 日11:00/15:00 G/PIT 前売2800円 ペア割5000円 学生割2000円 ※当日券は500円増し。 ※学生割は当日、要学生証提示。 ※未就学児入場不可。 https://twitter.com/aruotoko_natsu http://blog.goo.ne.jp/aruotoko-arunatsu

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