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念願の外部演出を迎え“あおきり”が初尽くしで切り拓く新たな地平


いまや名古屋を代表する演劇人のひとりとなった鹿目由紀は、劇団あおきりみかんの主宰として、劇作家・演出家として劇団内外で活躍する。特に自らの劇団では全作品を作・演出してきたが、新作「鏡の星」には流山児★事務所の小林七緒を演出に招いた。東京で俳優としても多忙な小林と、どんな経緯で共同作業が実現したのか。鹿目、小林に尋ねた。

鹿目「七緒さんとの出会いは2009年、中津川で開催された演劇キャンプの現場でした。流山児祥さんもご一緒だったんですが、おふたりとも初対面の上、私は佃典彦さんの代役で急きょ参加したので、ひどく緊張したのを覚えています(苦笑)」 小林「お互いに緊張したよね(笑)。その年の演劇キャンプは日本演出者協会と日本劇作家協会との合同で開催された異例の状況だったんですけど、鹿目さんは到着して一瞬で事態を把握していたので『頭いいなぁ』と感じました」 鹿目「私は、七緒さんがすごく素敵だなと思いましたよ。それで、佃さんの台本を七緒さんが演出した『標的家族!』など観るため東京へ行ったり、若手演出家コンクールで審査を務める姿にも触れるうち、うちで演出をお願いできないかなと考え始めて。あおきりでは自分の演出で20年やってきましたけど、ずっと外部演出の機会を探ってはいたんです。自分の戯曲や劇団に対して、客観的意見が知りたくて……」

左から鹿目由紀、小林七緒

会う度「いずれ一緒にやりたい」と話していただけに、小林はオファーを快諾した。出会いから10年近い付き合いになったが、この間、彼女は鹿目と劇団をどう見ていたのだろう。

小林「鹿目さんが演出家コンクールに参加した際、よく話もしました。また、あおきりの東京公演も拝見するうち劇団に変化が出てきたんですよ。それで興味も深まって。今は若い役者が育ってきているので、面白いタイミングに企画が実現して良かったです。私自身としては、〈個〉の話、小さな世界の話は、もういいやという気持ちがありました。また、鹿目さんだったらスケールの大きな話も書いてくれるであろう期待や信頼もありました。そこで『社会と向き合う作品』をリクエストしたんです。あおきりの作品には最近すでにそういった視点がうかがえるし、もっとはっきり打ちだしていいんじゃないかと。あと、今は女優陣がいいので、彼女たちに踏ん張ってもらう作品にもなっています」

舞台は2028年。地球そっくりの「ミラー星」が発見される。その星ではいろんなことが“逆”になっていることから、日本は探査隊を派遣することに。ただ、民間から探査隊に選ばれたのはなぜか女性のみ。しかも自然災害があった福島や熊本、常に政治的問題にさらされている沖縄といった地域の人ばかり。そして、その中には名古屋人も……。

鹿目「自分が望む社会はどういうものかを考えるうち、流されていくことの危うさから“自分の考えを持つこと”に行き着きました。それをSF的な物語に織り込んでいけたらと」 小林「大きな視点で考え出すと、結局『おまえはどうするんだ?』というところにたどり着くんですよね。女たちの話にしたかったのは、女たちには、腹をくくるスピードの速さ、潔さがあるから。世界中どこへ行ってもオバちゃんとかお母さんって、とにかく何か食べさせてくれる (笑)。それは経済の豊さに関係なく一緒。女性には、スイッチが入ったらイデオロギーだとか理論を吹っ飛ばして『それは嫌だ』と声をあげられる強さがありますよね。『鏡の星』は、いわゆる社会派の劇団が作る芝居とは違うけれど、刺さるものになると思っています」

読み稽古の様子

シニカルな笑いも盛り込みながら、劇は展開。福島県会津若松市出身の鹿目が震災や原発も含めた社会問題に向き合う会話劇には、理屈ではない台詞、言葉、感情があふれる。その背景には、新進芸術家海外研修制度による初めてのイギリス滞在があった。

鹿目「七緒さんと直前に構想を話してからロンドンに向かったんですが、初めての海外渡航だったので本当に異世界で、星が違うぐらいに感じて(笑)。そこから『鏡の星』を着想したんです。イギリスの人たちの様子、多様な演劇人との出会いに刺激を受けましたし、演劇人には海外の人はもちろん日本人もいたんですけど、みんな腹をくくって演劇をやっているのは共通だなと。そんな中でコミュニケーションの豊かさも実感しながら、『外に…』という想いと同時に、この世界や社会に対する疑問も湧き上がってきたんです」

歌稽古の様子

左から森岡光、大迫旭洋

あおきりみかんには珍しくオリジナルソングも挿入されて賑やか。また、ミラー星には顔がそっくりで性格が逆の人が存在するため、地球とミラー星それぞれの同一人物が対話する場面も見モノとなる。そして、お初の最後は熊本の劇団「不思議少年」から大迫旭洋、森岡光を客演に迎え、北九州公演にも挑戦することだ。取材したのは熊本勢にとって名古屋初日だったにも関わらず、大迫・森岡の両人は読み稽古からどんどん空気を作っていって、思わず見惚れてしまうほど。こりゃ、あおきりの面々も煽られずにいられない!? 出演も果たす鹿目だが、主宰者として転換の時という意識は十分。小林もそれを後押しする。

小林「あおきりみかんという色のハッキリした劇団にとって、後々『ターニングポイントだったよね』と思ってもらえる作品にできたら、私にとっても自慢になります。もともと体力、集中力、瞬発力のある劇団なので、今回は“掘り下げ”という部分に力を入れたい。そこから今後どうなっていくかも見通せたらいいですね」

劇団あおきりみかん「鏡の星」 ◎5月30日(水)~6月4日(月) G/PIT 前売3000円 大学・専門学生1800円 高校生以下1200円 ※当日券は500円増し。 ※学割は劇団予約のみ。当日、要身分証提示。 http://www7.plala.or.jp/lifu/

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