top of page

北村想の新作を加藤智宏が初演出、avecビーズに新たな風


劇作家・北村想の書き下ろしを上演する劇団「avecビーズ」に、今までとちょっと違った感触の舞台が生まれそうだ。新作「さよならの霧が流れる港町」の演出にoffice Perky patの加藤智宏を迎えたことで、これまでになかった制作プロセスが発生。刺激的な稽古が続いているという。加藤に話を聞いてみた。

「戯曲の第一稿の後、キャスティングを行ったんですが、それから1年半ぐらいの間に役が増えたり、どんどん変化していきました。そして今は稽古中ですけど、先日、通し稽古を行った後に構成が変わって、刺激的な展開の連続ですね。この作品はミステリーなので謎解きがいろいろあり、想さんは『より面白く』ということを考えているはず。変更の度に説明もしてくださるので戸惑いはないです。僕はavecビーズどころか特定の劇団で演出を執ること自体が初めてなので、今まで経験したことのない日々を送っていますけど、avecビーズにとっても実験的な創作になっているんじゃないかと」

このところavecビーズの演出は役者である小林正和が務めてきたが、小林が演技に集中できるよう今回は加藤を招いた。彼は自身のプロデュースで「ロストゲーム」「この恋や思いきるべきさくらんぼ」「DOWMA」「ザ・シェルター」と過去4作の北村作品を演出しており、北村はもちろんavecビーズの座長である金原祐三子からの信頼もあつい。ただ、北村の新作を手掛けるのは初めてということで「大プレッシャーだわ(苦笑)」と本音を飛ばすが、その表情には充実感がにじむ。

「さよならの霧が流れる港町」は、北村いわくサスペンスだ。舞台は文字どおり港町、古い倉庫を改装したパブレスト。この店のステージには夜な夜な歌手や踊り子、芸人らが出演する。しかし、ひとりのコルネット奏者が売り込みに来たことから事件が!? 一方、店の外では港湾にできた“遮蔽壁”のことが話題になっていた――。

「遮蔽壁には向こう側/こちら側があり、向こうはどうなっているのか?という興味が劇を動かしていきます。それは、向こう側という“謎”とも言えますよね。そもそも、パブレストで働いている人たちは何者なんだ?という謎がある。また、ひょっとすると向こう側からしたら、こちらこそ謎なのかもしれない。物理的な壁の有無は重要になります」

連日「こういうことか!」という発見がある現場で加藤は格闘しているが、それはキャストやスタッフも同じ様子。ある意味この作品に関わるすべての人にとって新しいトライは、観客にとってもavecビーズとの新たな出会いにつながる。

「本質的な“想像する力”を求められる芝居だと思うんですよ。例えば、現代っ子がプログラム上の遊び方しかできないのに対して、僕らの世代は自分たちでルールを作って遊んできた。そこには物事を勝手に作りだしていく創造力があった。現代ではルールを破ってはいけないという恐れが人間の生き方を窮屈にしているので、そういうことを考えさせてくれる戯曲をうまく伝えたいし、それが想さんの作品の面白さでもあると思います」

起きる出来事に対して観客が何かを想像すると、そこにフィクション、イリュージョンが生まれる。ひとりひとりの脳内で劇はできあがっていくのだろう。なお、加藤は北村作品の魅力とともに、avecビーズという劇団のカラーについても興味深い言い回しで語った。

「ひと言にすると“透明感”なんだけど、その透明さから“純水”のエピソードを思い出すんですよ。学生の頃、本当にH2Oだけでできた水を飲むと死ぬという話を教わったことがあって……。確か、浸透圧の関係だったと思います。つまり僕たちが普段飲んでいる水は、どんなに透明であっても何らかの不純物が混じっているんです。でもavecビーズや、avecビーズで想さんがやろうとしていることには、H2Oだけの純水のような危うい印象がある。毒性とも違う、どこか危険な感覚が面白いところですよね」

北村作品に透明感という修飾はさんざん見てきたし、筆者もついつい使いがちだが、加藤の鋭い分析には「なるほど!」と唸らされる。「さよならの霧が流れる港町」では、avecビーズの醍醐味と新鮮味を一気に体験できるはずだ。

avecビーズ 「さよならの霧が流れる港町」 ◎2月22日(木)~25日(日) 損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール 前売2800円 当日3000円 中高校生前売:1500円 avecビーズ公式ホームページ

タグ:

bottom of page