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ヌーヴェルヴァーグの巨星と子どもたちの奇跡に、俊英も驚きと開眼!?


諏訪敦彦監督の日仏合作映画「ライオンは今夜死ぬ」が間もなく公開される。ヌーヴェルヴァーグの申し子と呼ばれた歴史的俳優ジャン=ピエール・レオ―を主人公に迎える一方、映画制作ワークショップで出会った現地の子どもたちをキャストに起用したことで、監督自身も予測できないような奇跡の数々が収められた。諏訪は創作経緯をこう語る。

「2012年のラ・ロシュ・シュル・ヨン映画祭で僕のレトロスペクティブとジャン=ピエールの特集上映があって、彼の方から『諏訪っていうのは誰だ、全作品を観たい』と言ってくれたようなんです。その後お会いして食事をすることにもなったんですが、僕の顔を見ると『良かったよ、まいった』という意味なのか、親指を立ててシャッポを脱ぐジェスチャーをして(笑)。その時には、もう一緒にやることを前提に来たんだと思います。彼は、監督という人間が好きで、いつも監督を探しているんだろうと思います」

意思疎通は早かったものの、問題はどんな内容にするかだ。諏訪はジャン=ピエールと何を組み合わせたら面白いか考えを巡らし、ひとつは幽霊、もうひとつは子どもに決めた。いわく「ジャン=ピエールは普通の人じゃない」から!?

「劇中で子どもたちにリンゴを投げつけたシーンは本当びっくりしました。子どもたちと距離を縮めるつもりだったのか何なのか(笑)。ただ、演出に対しては細かくて、現場に入ると何をやるか具体的に知りたがり、僕がやって見せると振付のように同じ演技をする。そうかと思えば、鏡に向かって台詞を言うシーンは彼の突然の即興なんですよ。サルトルの言葉の引用だそうです。ジャン=ピエールにはリラックスする瞬間がなくて、撮影が終わるとすぐ良かったかどうか僕のもとに確かめにくる。キャリアもあり、もっと余裕があっても良さそうなものなのに、なぜこんなに不安なんだろうと思うほどでした。でも、追い込まれて震えている姿こそジャン=ピエールで、不安がエネルギーなのかもしれませんね」

10代でフランソワ・トリュフォー監督「大人は判ってくれない」に主演して以来、名立たる監督と仕事をしてきたジャン=ピエールには、築いたものを壊せないプレッシャーがあって当然だろう。ところが、本作では思いがけないジャン=ピエールにも出会えた様子。

「子どもたちとスープを食べるシーンは特別な瞬間でした。それはフランスのスタッフたちも同感だったと思います。ジャン=ピエールにはまだ引き出せるものがある、彼はまだ変われるんだなと。そんな観たことのないジャンを引き出したのは、子どもたちなんです」

「ライオンは今夜死ぬ」は、ジャン=ピエール自身とおぼしき老優が体験する、映画制作のお話。ある現場で〈死〉を演じることに悩んでいたジャンは撮影中断のアクシデントを利用して、かつて愛した女性ジュリエットに会いに行く。ジュリエットはすでにこの世にいないが、ジャンは彼女の屋敷で若き日のままのジュリエットと再会する。そして、その屋敷で映画を撮影したい、ジャンに出演してほしいと押しかけてくるのが子どもたちだ。

「ジャンと子どもたちのシーンは自由にやってもらって、ジャンとジュリエットのシーンはきちんと台詞を決めて演劇的にやっています」と言うとおり、諏訪一流の即興演出も織り交ぜた趣向。ややもすると〈演劇〉はライブで上演されるゆえに不安定で、〈映画〉は確定された記録のように思われるが、ここでは考え方がなんだか反対で興味深い。子どもたちは憎たらしいほど率直だが、機材を抱え、夢中で走り回る姿に嘘はない。また、ジュリエット役を演じたポーリーヌ・エチエンヌの不思議な気配は作品全体の鍵を握っている。

「ジュリエットには、ファンタジーとリアルの間をうまくつないでもらいました。彼女の素直なアプローチが生んだ結果だと思います。ジャン=ピエールとポーリーヌはすごく年齢差がありますけど、違和感がなかったのも彼女のおかげですね」

一方で子どもたちの素直な創作熱は、作品どころか諏訪自身にさえ影響を与えたようだ。

「これまではミニマムに、シンプルにと考えてきましたけど、今回は何でもありの遊び心が持てたんです。悪ふざけも含めて(笑)。そこには子どもたちの影響があったんでしょうね。撮影する前は、子どもに影響を受けるなんて思ってもいなかったんですけど(苦笑)」

「シナリオの話し合いを聞いていてもメチャクチャ」と子どもたちの映画作りに苦笑いする半面、国内外での子ども向けワークショップを振り返って「いつか自分のスタッフに雇い入れる夢」も語った諏訪。奔放な子どもたちの熱に煽られたかのように、ちょっと意表を突かれる諏訪作品が誕生した。

「ライオンは今夜死ぬ」 ◎2月17日(土)~、伏見ミリオン座にて公開 http://www.bitters.co.jp/lion/

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