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“ピアノの詩人”がクァルテットを率いて、映画&映像音楽の世界を。


1970年代のパリでフリージャズ・ピアニストとしてデビュー以来、ジャズ、クラシック、現代音楽を横断しながら演奏・作曲を続けてきた加古隆は、現在、ソロと並行してクァルテットでも活動している。パリ時代のピアノトリオ“TOK”を除いては長らく特定のグループを持たなかった彼が、“加古隆クァルテット”を結成して8年目。成熟してきた演奏を披露すべく、映画音楽を中心としたコンサートを開催する。加古に企画の経緯を尋ねた。

「当初はベスト・プログラムを作ろうと考えていて、2010年にクァルテットを結成して以降の全プログラムから代表的なものを選んだら、映画音楽が多くなったんです。それで『映画音楽セレクション』と題して打ちだすのも面白いなと」

結果、これまで多くの映画・映像作品の音楽を手掛けて加古の代表曲がライブで聴けることに! クァルテット用の楽譜がない曲は加古が書き直しているので、新鮮な味わいにも期待が膨らむ。それだけ力を注ぐのはクァルテットの活動に手応えを感じているからだろう。

「グループとしての成熟は感じています。このクァルテットは編成、配置がユニークなんですよ。ヴァイオリンとヴィオラが両サイドに立ち、中央にチェロとピアノ。これは見た目の問題もありますが、音の方向性にも関わっていて、楽器の音色がわかりやすい。同時に、奏者の人間的個性も際立ちます。最初、両サイドのふたりは他の音を聴きとるのに苦労していたんですけど、最近では『聴こえないけど聴こえる』と(笑)。でも、それで正しいと思うんです。感覚を養い、工夫しながら、完璧なアンサンブルを模索する。僕はソロもやりますけど、その時々それぞれの音や気分を感じられるアンサンブルも楽しい。奏者の個性、コミュニケーションの仕方は、ジャズともまた違って面白いですよ」

プログラムには「阿弥陀堂だより」「最後の忠臣蔵」「大河の一滴」「博士の愛した数式」ほかの映画音楽に加え、NHK「映像の世紀」からもテーマ曲「パリは燃えているか」をはじめとした名曲の数々、また三重県から委嘱された「熊野古道」のような東海地区ゆかりの曲も予定されている。さらに嬉しいのは2018年夏公開予定の映画「散り椿」のナンバーをいち早く聴かせてくれることだ。

「2017年は春から秋口まで『散り椿』の作曲に費やしました。記憶に残る仕事となり、楽しかったですよ。木村大作監督からは『王道を』というリクエストを受け、お客様が観終わった後、メロディが心に焼き付くような音楽を意識しました。シンプルだけど、強く残るような……。『散り椿』は武士の厳しい世界を描いていますが、そこにはロマンにはじまり、いろんな要素が詰まっています。台本や監督との話をもとに、求められているものと自分自身の想像を交ぜながら、何度も聴ける音楽を作りました。また、できる限りロケ地にも足を運ぶんですよ。撮影現場の空気感や監督の気迫、やつれ具合も感じられますから(笑)。今回は主演の岡田准一さんの姿勢がきれいで、役柄や雰囲気にピタッと一致している様子が印象的でしたね。役作りのことなど、よく話もしてもくださる方で、そういう岡田さんの佇まいも参考にしました」

ちょっと笑いも織り交ぜながら映画音楽制作の苦労を語る加古だが、「映像の世紀」のようなドキュメンタリー番組の音楽を演奏する時に社会情勢の影響を受けることはあるか尋ねると、悩んだ表情を見せながらも素敵な言葉で返してくれた。

「情勢によって演奏が変わらないようにとは思いますが、例えば『映像の世紀』では酷い歴史を目のあたりにすることもあり、同じテーマ曲なのに最初と最後で聴き手の感じ方が違ってくることはありますよね? そもそも音楽は、聴く人の心の状態によって変化しうるものです。ただ、世界に何か大きなことがあったら、それに感応して、演奏に表れてしまうことはあると思います。それでも“いちばん美しく弾く”ことにはこだわりたい。それがピアニストである僕のテーマです」

加古隆コンサート2018「クァルテット・ベスト」 ~加古隆クァルテットが奏でる 映画音楽セレクション~ ◎2月12日(月・休)14:00 三井住友海上しらかわホール 全席指定 前売6480円 ※未就学児童は入場不可。 中京テレビ事業 公式サイト

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